2011年6月に世界最速として認定されたスーパーコンピュータ「京」。Linuxを搭載したスパコンでどうやって最速を実現したのか――。OSやミドルウエアを改良し、独自ハードウエアの性能を最大限にまで引き出せるようにしたシステムの内部を徹底解説する。

写真●2011年6月のTOP500リスト
写真●2011年6月のTOP500リスト
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 京速コンピュータ「京」は、世界トップレベルの演算性能を持つ次世代スーパーコンピュータ(以下、次世代スパコン)の愛称だ *1。文部科学省の「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」の一環で、理化学研究所と富士通が共同で開発・整備を進めている。

*1 「京(けい)」(英語表記はK computer)は、2010年7月に約1500通の応募の中から選ばれた愛称(愛称決定| 理化学研究所 次世代スーパーコンピュータ)。

 2011年6月のTOP500リスト*2では、開発途中でありながら、2位となった中国の「天河1A」に対し3倍以上の性能となる8.162P(ペタ)FLOPSで1位を獲得した(写真)。日本の1位獲得は、2004年11月に初代「地球シミュレータ」が1位の座を譲り渡して以来、7年ぶりとなる。

*2 TOP500リストとは、LINPACKの実行速度を指標として世界中のスーパーコンピュータの性能を測定し、上位500位までを定期的にランク付けするプロジェクト。1993年から毎年2回(6月と11月)更新している(TOP500 Supercomputing Sites)。

 「京」の目標性能は、LINPACK*3性能で10PFLOPS。これは、初代地球シミュレータの250倍以上の性能で、1秒間に1京(1兆の1万倍)回の浮動少数点演算を計算できる。その目標に向かって、コンピュータアーキテクチャーや半導体技術、実装技術、ソフトウエア技術に至るまで、世界の標準化動向を考慮しつつ、あらゆる角度から既存の設計を見直し、システム構成を決定した。

*3 LINPACK(リンパック)は連立一次方程式を解くベンチマークプログラム。

 「京」は、消費電力の面でも優れた性能を示している。2011年6月のGREEN500リスト*4でも世界トップレベルの6位を獲得。他の上位システムのほとんどはGPUを利用している。「京」は汎用CPUのみで構成されるものとしては極めて消費電力が低いシステムとなっている。

*4 GREEN500リストとは、消費電力当たりのLINPACK測定性能を指標として、エネルギー消費効率の良い世界のスーパーコンピュータを上位500位まで定期的にランク付けするプロジェクト。2007年からランキングが発表されている。現在は年2回(6月と11月)更新(The Green500 List)。

 「京」は現在、2012年の完成に向け、神戸のポートアイランドに建設された次世代スパコン施設で、設置・調整が進められている。第1号きょう体は2010年9月29日に設置され、2011年8月までに全体の設置が完了する見込みだ。