シェアードサービス編

 中国へのBPOで大きな成果を上げている先進企業のほとんどが、自社グループ内で間接業務の集約や、プロセスの標準化・マニュアル化に取り組んできた実績を持つ。まだそうした取り組みの歴史が浅い企業は、まず自社でシェアードサービス化してからのほうが、BPOはスムーズに進むだろう。

 ただしシェアードサービスを実施する際には、1つ注意すべき点がある。サービスの外販と効率化の二兎を追うのは困難ということだ。コクヨや富士フイルムホールディングスのシェアードサービス子会社は、プロフィットセンターからコストセンターに戻し、“コスト削減センター”としての役割を明確にした。

※  ※  ※

 かつては「間接部門や事務処理部門はプロフィットセンターを目指せ」という戦略を掲げる事例が多かった。2000年代前半のことである。本誌が2005年にシェアードサービス事例を取り上げた時(2005年4月号特集1『待ったなし!間接部門改革』)も、そうした動きが盛んだった。自立を促し、現場の向上心を最大限に引き出す意図があったのだろう。だが現実は甘くなかった。2010年の今、外販を中止し、撤退する企業が相次いでいる。

「あるべき姿と実態がかけ離れていた」

図1●グループ内のコストを引き下げる本来の目的に回帰
図1●グループ内のコストを引き下げる本来の目的に回帰

 コクヨは方針転換を迫られた企業の1社だ。2009年1月にシェアードサービス子会社であるコクヨビジネスサービス(KBS、大阪市)の代表取締役社長に就任した吉本悦章氏は「外販は失敗だった」と認める。

 吉本氏は社長に就くや社内で外販からの撤退を宣言し、新規営業をストップ。半年ほどかけて既存顧客に説明し、外販から手を引いた(図1)。

 「シェアードサービス子会社が本来目指すべき姿から、実態はかけ離れていた。コスト削減という原点に立ち返る」。コクヨの取締役経理部長でもある吉本社長はそう説明する。売り上げを稼ぐためにグループ各社から高い費用を徴収するのでは本末転倒。

 しかも「KBSには間接業務を売り歩く営業センスは無かった」。社内から集められたKBSの社員は経理や人事、総務のスペシャリストではあっても、営業のプロではない。外販という慣れない仕事に疑問を感じながら働く社員もいた。