Q5 国内BPOではコストは下がらない?

ビジネスプロセスの見直しとセットで実施すれば可能

 Q1~Q4では、中国へBPOするに当たっての典型的な疑問にお答えしたが、それでもまずは、国内のBPOから検討したいというところもあるだろう。もちろん、国内でもやりようによってはコスト削減が可能だ。ただし、単なる業務移管でなく、ビジネスプロセスを大きく見直すことが前提となる。それを物語る事例を紹介しよう。

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 ニチレイフーズは2009年に冷凍食品の受注業務をトランスコスモスの地方センターに移した。卸などから注文を受ける受注担当者はメーカーの「顔」ともいえる。それだけに自社内で運営するのが食品業界では一般的で、「まだ珍しいケースだ」(花澤義剛ロジスティクス部長)という。

 従来は東京と名古屋に受注センターを構え、派遣社員を雇用して60人体制で業務に当たっていた。同センターで扱う注文はEDI(電子データ交換)とファクス受注の2種類あるが、データ入力などオペレーターの手間を主に要するのはファクス受注のほうだ。注文の40%を占める。

 かつてはオペレーター1人が50~100社を受け持ち、取引先に対応する窓口社員を固定する担当店制を敷いていた。流通業者ごとに単価や取引条件が異なり、納品すべき拠点は複数あるので、個々の取引先に詳しいオペレーターを育てるほうがミスを減らせたからだ。

エリア別担当店制を廃止、運用コスト15%減

 しかし、ここ数年はオペレーターの定着率が悪くなり、後任の採用と再教育に時間と費用がかさんでいた。個々のオペレーターが休むと、簡単に穴埋めできない担当店制のデメリットも露呈してきた。

 そこで4社からBPOの提案を受け、トランスコスモスを選定。東名のセンターを2つとも閉鎖し、2009年2月からトランスコスモスの「BPO熊本テクニカルセンター」に移管している。

 熊本のBPOセンターにいるオペレーター数は45人と、自前の2拠点にいた60人から25%減った。受注システムはニチレイフーズが2008年夏に刷新したものを使う。BPO初年度の2009年度は、自前に比べ15%の運用コスト削減に成功し、2010年度は20%減を期待する。

 ただし60人から45人に減ったとはいえ、中国にBPOするのとは異なり、人数減だけでは15%も下がらない。コスト削減に効いたのは、エリア別担当店制を廃止し、業務別チーム制を採ったことだ()。作業を「注文ファクス入力」「EDI・エラー対応」「在庫」「問い合わせ」の4種類に標準化した。チーム編成も8チームから4チームに半減させた。

図●BPOを機に、受注センターのエリア別担当店制を廃止。4つの業務別チームに再編して効率化
図●BPOを機に、受注センターのエリア別担当店制を廃止。4つの業務別チームに再編して効率化
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 食品は品目数が多いうえ、似た名前の商品があったり、同じ商品でも容量が異なると別商品として扱ったりする。このため最初の半年は受注ミスが頻発した。

 そこでミスが多い商品は選択画面を修正し、間違えにくいように改良した。「ファクスの読みにくい文字は入力前に取引先に電話で確認する」などのルールも徹底させた。

 業務品質を観測するため、「誤入力率(受注ミス)」「特別便(受注ミスなどが原因で通常配送を外れてしまった商品の別便輸送)の金額」「電話の応答率(取引先からの電話に出られた割合)」をKPI(キー・パフォーマンス・インジケーター、重要業績評価指標)として毎月報告を受ける。

 BPOから1年後の2010年1~3月には、自前のときより精度が高まった。ニチレイフーズは注文書に記入された一つひとつの受注処理を「1行」と数える。「月間の処理件数は33万行。受注ミスは30行(0.01%)未満」(前橋義勝ロジスティクス部受注センター所長)。料金は月払いだ。

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 ここまでBPOに関わる事例やノウハウを紹介してきた。実は、中国へのBPOで大きな成果を上げている先進企業のほとんどが、自社グループ内で間接業務の集約や、プロセスの標準化・マニュアル化に取り組んできた実績を持つ。そうした取り組みの歴史がまだ浅い企業は、まず自社でシェアードサービス化を軌道に乗せたほうが、結果的にBPOもスムーズに進む可能性が高い。

 そこで次回からは、シェアードサービスの動向を紹介していこう。