BPOは結婚のようなもの――。依頼側である顧客企業とBPOを受託した業者は協力して間接業務や事務処理を進めなければならない。

 ところが実際には、発注企業が責任者を明確に決めていなかったり、現場へのヒアリングに協力的でなかったりと、業者を戸惑わせるケースもあるようだ。中には予備調査の段階で「受託するのは無理」と判断した業者側から、「BPOしても効果はあまり見込めない」とやんわりと断りを入れられるケースさえある。

 では、BPOを始めるまでに、発注企業はどういった人員や資料を用意すればよいのか。BPOを手がける業者の一般的な手順を紹介しよう。

マニュアルがあっても移管が楽とは限らず

図1●BPOを進めるためには、人員の配置や資料の用意など協力が欠かせない
図1●BPOを進めるためには、人員の配置や資料の用意など協力が欠かせない
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 業者にBPOできるかどうかを企業が打診した段階で、まず行うのが業務分析だ(図1)。分析の目的は、業務のどの部分をBPOできるのか、あるいはBPOによるコスト削減効果が高い業務は何かを明らかにすること。通常は、正式にBPOを決定する前の予備的な調査として実施する。

 業務分析では移管候補の現場ごとに「普段どういった相手と何をやり取りしているのか」「利用するシステムは何か」といった情報を、WBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー=作業分解図)に書き表せる程度に収集する。こうした情報は、業者のコンサルタントが現場の担当者に直接ヒアリングして集めることが多い。当然、ヒアリングに応じる人を企業は用意する。

 ヒアリング対象は、実際に事務処理をしている社員だ。時には契約社員や派遣社員も対象になる。しかしここで問題が生じるケースがある。まだBPOが正式なプロジェクトとして承認されていないため、担当者に直接ヒアリングできない場合だ。こうしたケースでは「誰がどういった業務を実施しているかを把握しているリーダークラスに内々に対応してもらう」(日本IBMのBPD F&Aソリューション&デリバリーの府中善英ソリューション・アーキテクト)。

 ヒアリングと並行して、業者に提出する資料やデータも用意する。例えば対象業務の作業量や動員数などのデータだ。銀行とのやり取りが発生する業務が対象になる可能性があれば、「銀行側の組織体制図を求めることもある」(府中氏)。

 もちろん業務のオペレーションマニュアルがあれば、業者は調査の参考にするが、「マニュアルがあるからといって業務分析が楽になるわけではない」とインフォデリバBPO事業本部プロジェクト開発部の范蘭芳部長は打ち明ける。社内用のマニュアルの多くはオペレーターの暗黙知を前提に作られており、BPOに必要な事項が網羅されていないからだ。

 日本IBMは業務分析の段階で、入力画面などシステムの仕様まで調べるという。伝票データの入力であれば、プルダウンメニューから選ぶ操作だけで済ませられる項目がどれくらいあるのか、文字入力が必要な項目がどの程度あるのかなどをチェック。

 取引先コードや顧客コードが業務システムごとに異なっているのか、統一されているのか、といったことまで確認する。文字入力の項目が多いほどオペレーターに要求される日本語能力は高くなり、コード体系が複雑であるほど入力量が多くなるからだ。

 こうした業務分析を経て移管判定し、BPOの対象にする業務やおよそのコストを話し合い、契約を結ぶ。現場が「BPOできるわけがない」と主張する業務でも移管可能という結果が出るケースがある。