医師が手書きする診断書は医学用語と略語の連続で、英語やドイツ語が交じる。それだけならまだしも、率直に言って医師の字は汚いことが多い。「ミミズ文字」とも言われ、日本人でもほとんど読めない診断書のオンパレードだ。

写真1●日本人でも読むのがやっかいな、医師が書く崩れた文字や専門用語だらけの診断書を、日本の業者よりも高い精度でほぼ完ぺきに入力していく
写真1●日本人でも読むのがやっかいな、医師が書く崩れた文字や専門用語だらけの診断書を、日本の業者よりも高い精度でほぼ完ぺきに入力していく
[画像のクリックで拡大表示]

 インフォデリバ大連センター内の太陽生命保険専用ルームでは、そうした判読の難しい外国語交じりの診断書を、二十数人の若い女性たちがものすごい速さで入力している。彼女らが打ち込んでいるのは、太陽生命の契約者から送られてくる、保険金の請求に必要な医師の診断書だ(写真1)。

 部屋を見渡すと壁一面に、医学用語や略語がびっしりと張られている。ホワイトボードには覚えなければならない日替わりの10単語が書き込まれ、毎週実施するミニテストや2カ月に一度の実力テストの答案用紙も置かれている。「頭が下がる思いがする」(松森博司取締役専務執行役員)。

 そんな様子を一目見ようと、太陽生命のこの部屋には同業他社からもヒアリングや見学が相次いでいる。ここ数年、業界は保険金の支払い漏れが問題になっているが、中国へのBPOによる診断書の電子データ化が大きな業務改善につながると期待されているからだ。細川敏男執行役員保険金部長は「保険各社は診断書のデータ入力の精度と費用の両立に頭を悩ませている」と明かす。

専門用語を7000語も覚え、生産性は4倍に

 大連で診断書を入力する中国人スタッフたちは日本語の会話がさほど上手ではなく、医学の専門知識があるわけでもない。だが、診断書に出てくる医学用語や略語の文字認識力なら、もはや普通の日本人には負けないだろう。

 診断書の経過欄によく出てくる単語や、体の名称、傷病名、手術名、それに英語の略語やカタカナ用語など合計で7063語─。それが彼女らの覚えなければならない「標準スキル」だ。傷病名や手術名は一文字違うだけで内容が大きく異なることがあり、入力ミスが許されない。彼女たちに要求されている集中力は、並大抵のものではない。

 2008年初めにBPOの検討を始めた時は、当然のように太陽生命社内では「中国人に、崩れた日本語文字を入力できるわけがない」という声が上がった。しかし、2008年2~3月に日本の業者とインフォデリバで500枚の診断書を使って入力比較をしたところ、入力精度は最初から大連側が日本の業者を上回っていたという。

 スピードはやや劣ったものの、まじめな勤務態度を見れば訓練次第で向上しそうだし、1枚当たりの入力コストが日本の数分の1だった。「個人情報保護は、入力する範囲を診断の記述部分と契約者が生まれた年、性別だけに絞ることでクリアした」(細川執行役員)。2008年5月にBPOを決め、料金は1枚当たりの処理単価ベースで契約した。