「2015年までに100万台を出荷する製品に育てたい」

 パイオニア 代表取締役社長の小谷進氏は、2011年10月25日に開いた新製品発表会で意気込みを語った。

 披露したのは、2.4型半透過型カラー液晶パネルを搭載した自転車向けの携帯型ナビゲーション装置(サイクルナビ)。2015年に向けて同社が掲げたビジョン「街でも家でも車でも、笑顔と夢中が響き合う」に沿って開発した、第一弾の意欲作だ。カーナビで培った測位技術を使って、新規事業を開拓するための戦略製品である。

 「単にカーナビが自転車に使えるだけではなく、サイクルメーターのように走行速度や距離などを測れるだけでもない。新しい自転車の楽しみ方を提案する」と、小谷氏は胸を張る。同社によれば、国内の自転車人口は約7500万人。最近の自転車ブームで、このうち330万人ほどがレースやトレーニング、健康のためにロードレーサーなどのスポーツサイクルに乗っているという。

測位技術と無線通信の融合が新分野を創出

パイオニアが製品化したサイクルナビ「ポタナビ」
パイオニアが製品化したサイクルナビ「ポタナビ」
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 今回開発した「ポタナビ」は、こうしたスポーツサイクリストに向けて投入した製品だ。大きな特徴の一つは、第3世代移動通信(3G通信)機能を備えること。NTTドコモの3G回線を利用し、通信料金はパイオニアが2年間負担する。

 画面上に地図を表示し、現在位置や進行方向を確認できるだけではなく、3G通信機能を用いたWebサービスとの連動機能も用意した。走行したルートの軌跡や計測データなどを自動でパイオニアが用意するサーバーに記録し、パソコン用の専用Webサイトで閲覧できる。逆に、あらかじめ設定したルート情報やサイクリングする地域の天気予報、お薦めの観光スポットなどをサイクルナビで受信し、走行中に確認することも可能だ。

 GPSなどを使った測位機能と、無線通信を融合させ、新しい機器やサービスを創出する動きは、ここにきてかつてないほどに盛り上がりを見せている。いわゆる「位置情報サービス(LBS:location based service)」である。パイオニアのサイクルナビは、その一つの例に過ぎない。同社は、今回のサイクルナビを世界展開する計画だ。そこには、多くの競争相手が待ち構えている。

 LBSが広がったキッカケは、スマートフォンの世界的な普及だ。従来も、国内外の携帯電話機にはGPS機能が搭載されてきた。だが、緊急用途に限った利用であったり、携帯電話事業者との交渉が必要だったりしたため、測位機能は活用しにくいとの声が強かった。

 そこに風穴を開けたのが、スマートフォンである。測位機能や位置情報を扱うAPIなどの整備が進んだことで、GPSや無線LANを使った測位機能を通信機能と組み合わせて活用するハードルが従来よりも格段に下がったのだ。

 スマートフォンと位置情報を組み合わせたサービスの興隆の象徴は、米国のベンチャー企業、Foursquare Labs社である。測位技術と通信技術、そしてSNSを組み合わせた「foursquare」と呼ぶサービスを2009年3月に開始した。サービス開始後の2年半で、既に会員数は世界で1000万人を超えている。