※本記事は日経コンピュータの特集をほぼそのまま再掲したものです。初出から1年近くが経過しており現在とは状況が異なる可能性がありますが、この記事の価値は今でも変わらず、読者にとって参考になる部分が多いと判断し、改めて公開しました(ITpro編集部)

 俊敏性の獲得、運用業務の負荷軽減という二つのメリットを享受するため、運用の整備は必須。利用者の注文に応じて仮想マシンを素早く作る、大量の仮想マシンの構成を把握するといった機能が必要になる。

 運用管理というと、最新の機能を備えた運用管理ツールの導入が思い浮かぶが、やみくもにツールを導入しても初期投資がかさみ、運用ノウハウも蓄積しない。

 運用管理のポイントは、自動化しなくてもかまわない運用項目と、すべきものを峻別することにある。仮想マシンの作成などは自動化しなくてもかまわない項目である。一方、仮想マシンの構成管理は手間がかかるので、自動化したい項目だ。

仮想マシンを自動作成しない

 王子製紙では、仮想マシンの作成を自動化していない。プライベートクラウドを運営する王子ビジネスセンターは、OSやミドルウエアのセットアップイメージのインストールや動作確認などを手作業でこなしている。運用担当者が、ヴイエムウェアの仮想化ソフトが備える管理コンソールを通じて、一つひとつ仮想マシンを作る。

 仮想マシンの作成を自動化しない理由は三つある。一つは、「2~3日後にすぐ仮想マシンが欲しいというニーズが利用部門から上がってくることはない」(王子ビジネスセンターの島田部長)からだ。王子ビジネスセンターが仮想マシンを作成し、利用部門に提供するまでのリードタイムは1週間ほど。「1週間でも十分速い。物理サーバーの調達には、1カ月以上かかっていた」(島田部長)。

 二つめは、自動化にかかるコストの問題だ。王子ビジネスセンターは、仮想マシンの自動生成機能などを備えたツールの導入を検討した。検討したのは、大手ITベンダー2社の製品。「両製品共に、導入には5000万円ほどかかる。仮想マシンのデリバリーのスピード向上を利用部門が求めていない現状で、これだけのコストはかけられない」。島田部長はこう説明する。

 三つめは、ツールに頼ってしまうと、運用担当者に仮想マシンを作成するスキルやノウハウが身に付きにくいという理由だ。

利用中の管理ツールを生かす

 性能管理や構成管理、障害検知・復旧は自動化すべき運用項目だ。理由は、仮想化環境の混在が増えているため。背景には、仮想化ソフトの機能が発展途上であり、やむを得ず、複数の仮想化ソフトを併用せざるを得ない事情がある。こうしたケースでは、利用中のツールの下に、仮想化ソフトの管理ツールを連携させる形が一般的だ。

 大阪ガスは、日立製作所の仮想化機構「Virtage」とヴイエムウェアの「VMware ESX」、オープンソースソフト(OSS)の「Xen」を採用し、仮想化環境を構築している。こうした仮想化環境の混在を管理するため、大阪ガスはそれまで利用してきた日立の運用管理ツール「JP1」を生かした。具体的には、JP1からそれぞれの仮想化ソフトの管理コンソールを連携し、JP1で一元的に管理できるようにしたのだ。

 仮想化環境の混在は、大阪ガスだけではない。カシオ計算機や住友電工、大成建設、東京海上日動、凸版印刷も同様だ。

 ユーザー企業のニーズに対応し、富士通は2011年1月に提供を開始する運用管理ツール「ServerView Resource Orchestrator」の新版で、VMwareとHyper-Vに加え、新たにOSSのXenを一緒に管理できるようにする。NECが提供する「WebSAM SigmaSystemCenter」では、VMwareとHyper-V、シトリックス・システムズの「XenServer」を管理可能だ。