プライベートクラウドを構築する上での成功の秘訣が見えてきた。それは「作らない」というもの。コンピュータリソースをサービスとして貸し出すプライベートクラウドには「メニュー」「ワークフロー」「運用自動化」が欠かせない機能とされる。これらの機能を作り込もう、というのがこれまでの常識だった。だが、この常識が変わりつつある。最大限の効果を生み出すプライベートクラウドの構築術を指南する。
※本記事は日経コンピュータの特集をほぼそのまま再掲したものです。初出から1年近くが経過しており現在とは状況が異なる可能性がありますが、この記事の価値は今でも変わらず、読者にとって参考になる部分が多いと判断し、改めて公開しました(ITpro編集部)

 「プライベートクラウドは一からすべてを作り込むものではない。割り切りの考えを常に意識しておく必要がある」。カシオ計算機のプライベートクラウド構築を率いてきた、カシオ情報サービスの国吉典仁常務はこう言い切る。

 自社のコンピュータリソースを社内でサービスとして提供するプライベートクラウド。その構築法が変わりつつある。必須機能とされる「メニュー」「ワークフロー」「運用自動化」について、「できるだけ作らない」方針を貫くユーザー事例が増えてきた。

 あえて作らない理由は二つある。一つは、構築期間を短縮し、投資負担を抑えること。もう一つは、仮想マシンの作成やワークフロー業務を手作業でこなすことにより、プライベートクラウド運営に関する知識やノウハウを蓄積することだ。

 プライベートクラウドは、仮想化技術を活用してコンピュータリソースを統合・プール化しただけのものではない。リソースプールから仮想マシンなどをサービスとして提供して初めて、プライベートクラウドになる(図1)。

図1●プライベートクラウドの仕組み
図1●プライベートクラウドの仕組み
メニュー、ワークフロー、運用自動化を実現することで、利用者に対してコンピュータリソースを迅速に提供する
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 サービスとして提供するためには、仮想マシンのスペックと利用可能なミドルウエアの料金をパターン化したメニューが必要だ。具体的には、「CPUは4コア、メモリーは8Gバイト、ディスクは50Gバイトで月額1万2000円」といったイメージである。利用者はメニューから自分に最適なパターンを選び、プライベートクラウドの運営者に注文する。利用者が出した注文の妥当性を上長などが承認するのが、ワークフローの役割だ。運用自動化の機能は、注文に応じたスペックの仮想マシンを素早く作り出し、OSやミドルウエアを導入したうえで、利用者に引き渡す。

 従来、これら三つの機能を作り込もうというのが、プライベートクラウド構築の常識だった。しかしプライベートクラウド黎明期とも言える今、そこまで厳密に作り込まなくても十分、という判断を下した企業は多い。