インドでの業務歴も今年で通算9年目に入った。近年のインド通信業界を振り返ると、改めてその発展ぶりに驚かされる。

 特に成長著しいのが携帯電話分野だ。2000年末の契約者は188万人だったが、2011年6月には8億5170万人へと急増した。当初利用者は都市部の富裕層やビジネスパーソンだけだったが、競争による携帯端末と通話料金の低下によって、今や農村や低所得者層にまで浸透している。

 その一方で固定電話の契約数は減少が続いている。2011年6月の契約者数はわずか3429万人で、普及率は3%を下回っている。これは、国土の広いインドで固定電話網が整備される前に、便利で低価格な携帯電話普及の波が押し寄せた結果だろう。

 実は、法人向けのデータ通信回線市場でも同様の傾向がある。固定回線は回線を敷設するのに時間がかかり、道路工事による回線断が発生することもある。そのためアクセス回線の手段として、有線よりも無線を使った方が納期や品質の面で大きなメリットを得られる場合があるのだ。インドでオフィスや工場にデータ回線の導入を提案する場合、ニーズや立地場所などに応じて、無線または有線、あるいは両者を組み合わせた冗長構成から最適なアクセス回線を薦めている。

ネズミやサルによる信じられない被害

 最適と思って導入した回線でも、インドならではのハプニングに遭遇することがある。

 ある事例では、巨大なネズミが光ファイバー回線をかじったことで通信障害が発生した。その対策として、ネズミ向けの防護柵を設置したことがあった。別の事例では、野生の猿がいたずらして衛星アンテナの方角を動かすため、アンテナの周りに柵を作ったこともあった。また、現地通信事業者から「何者かが屋外の配電盤を盗んでいった」と、耳を疑うような報告を受けたこともある。インドでは様々な事態への柔軟な対応が必要だ。

 新しいオフィスや工場内のICTインフラを構築する際にも、現地の複数業者が作業するので想定外の事態が発生する。例えばインドの人々は、納期を努力目標ぐらいにしかとらえていないため、「1カ月後にオフィス内装が100%完了する」と言っていても、2週間以上遅れるのは当たり前だ。

 ICT環境の構築は、建設や内装工事の進行状況に大きく左右される。サーバールームの構築や電源準備を先に進めるように依頼するなど、様々な調整が必要になることも多い。

 インド独立の父であるマハトマ・ガンジーは「苦闘が多ければ多いほど、勝利は輝かしい」との名言を残している。インドでのビジネスでも当てはまる言葉だと、個人的には思っている。

瀬崎 智史(せざき ともふみ)
2007年6月から、KDDIインド法人立ち上げのためインド再赴任。当地に赴任前は、インドを中心とした新興国の新規ビジネス開発を担当。現在はKDDIインドにて総務・経理、営業を兼任している。初めは全く分からなかったインド英語の発音が、今では世界で一番分かりやすいと思う自分に成長を感じている。