「CIOと情報システム部門の在るべき姿」に関するエキスパートといえるのが、米ガートナーリサーチのジョン・マホーニー バイスプレジデント兼最上級アナリストだ。CIOと情報システム部門の役割の変化、ITリーダーの育成方法などについて聞いた。(聞き手は田島 篤=ITpro

米ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト ジョン・マホーニー氏
米ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト ジョン・マホーニー氏

今までとこれからで、情報システム部門の役割はどう変わるのか。

 従来は「高性能な技術を提供する」というのが、情報システム部門(以下、IT部門)の使命だった。そしてCIO(最高情報責任者)の役割は、IT部門を運営するというものだった。これからは、この役割が変わってくる。一言でいうと、IT部門は技術を効果的に活用して、ビジネスを戦略的に達成するための見張り役になる。従来よりも役割が大きくなるわけだ。

 加えて、CIOの仕事はさらに難しくなる。役割が大きくなることを自分自身が自覚すると同時に、IT部門のスタッフや経営層にも認知してもらう必要があるからだ。

そもそも、なぜ役割が変わるのか。

 今は情報化社会の変革期だ(関連記事)。CIOが対処しなければならない変革には、三つの大きな領域がある。

 一つめは、技術基盤それ自体の変化だ。クラウドへの移行や、ソーシャルコンピューティングの台頭などが始まっているし、アプリケーションを調達する方法も変わってきている。例えば、大きなパッケージを導入する代わりに、小さなアプリケーションを複数活用する動きが出てきている。これらの結果、アプリケーション開発やプロジェクト管理に関連した技術基盤が変化している。

 二つめの領域は、変化しつつある世界環境だ。経済的にも、社会的にも、世界環境が変わってきている。例えば、中国やインド、東南アジアといったような活性化するビジネス地域に変化が起こっているし、日本や米国、欧州でのビジネス上の連携の仕方も変わってきている。ビジネスの運営方法が変わるにつれて、それを支えるITの在り方も変わらなければいけない。

 三つめは、ビジネスの領域である。新しい技術の潮流が新たなビジネスを創生している。例えば、ロボット技術。家庭だけでなくビジネス分野、例えば建築などでの活用が期待されている。また、インターネットの普及により、膨大な数のデバイスがIPアドレスを獲得してネットにつながるようになりつつある。すでに、インターネットにアクセスしている人よりも、接続しているデバイスの方が多くなっている。

 これらの三つの領域における変革により、ビジネスにおけるITの役割が大きく変わろうとしている。当然ながら、CIOやIT部門の役割も変わってくる。

CIOの役割が変わると、人材像も変わってくる。

 求められる役割に応じて、CIOのキャリアパスも変わってくる。今後、CIOのキャリアパスは大きく二つに分類できるだろう。

 一つは、これまでのCIOの役割を踏襲した、「技術を提供する」という役割だ。従来と同様に重要な役割であり、今後も不可欠な要素である。

 もう一つは、「ビジネスエクゼクティブ」として自分を高めていくというキャリアパスだ。これは、技術がどういった形でビジネスの成長に貢献できるかといったことを考える役割になる。

 これらの二つのパスはつながってはいるものの、異なる思考が求められる。同じ人が行うのは困難かもしれない。また、CTO(最高技術責任者)やCOO(最高執行責任者)との役割分担と協力体制も必要だろう。