サーバー仮想化は普及期に入った。今後、さらに多くの業務が仮想サーバー上で提供されるようになる。同時に、仮想化の導入率が上がるにつれて新たな課題も出てくる。サーバー仮想化の最新動向と今後の取り組み方について、米ガートナーリサーチのバイスプレジデントであるフィリップ・ドーソン氏に聞いた。(聞き手は日川佳三=ITpro

米ガートナーリサーチ バイスプレジデント フィリップ・ドーソン氏
米ガートナーリサーチ バイスプレジデント フィリップ・ドーソン氏

企業においてサーバー仮想化はどのくらい進んでいるのか。

 2011年現在、仮想化されているワークロード(アプリケーション)は、ワークロード全体の49%を占める。このうち9%はデスクトップ仮想化のために使われている。業務サーバー用途のワークロードは、40%ほどを占めている。

 もし「仮想化のブームは、すでに落ち着いた」と考えているとしたら、それは大きな誤解だ。2011年の1年間に導入される仮想サーバーの台数は、2001年から2009年までに導入された仮想サーバーの台数を超える。

 今後も、サーバー仮想化の伸びは、鈍化することなくリニアに伸び続ける。2008年に18%だった仮想化の比率は、2011年に49%、2015年には77%に達する。2016年には、ワークロード全体の80%が仮想化されると予測している。

 サーバー仮想化ソフトの2大プレーヤである米VMware(vSphere 5など)や米Microsoft(Hyper-V)にとっては、これからの3~4年が、もっとも重要な成長の機会であるといえるだろう。

中小企業への仮想化の浸透がMicrosoftのシェアを押し上げる

VMwareとMicrosoftの力関係は今後どう変化するのか。

 2011年現在の市場シェアは、VMwareが70%、Microsoftが15%だ。今後、サーバー仮想化市場が倍増したとしても、VMwareは市場のリーダーとしての地位を保ち続け、安定して60%程度のシェアを確保する。一方で、Microsoftも、2015年には市場シェアの25%を占めるまでに成長する。

Microsoftの市場シェアが15%から25%に増える理由は何か。

 Microsoftは、中小企業向けのビジネスに強い。そして、中小企業においては今後、仮想化の導入が進む。現状では、中小企業におけるワークロードの仮想化は20%と低いが、2015年には、これが30%程度にまで増える。

 この一方で、VMwareが得意としている大企業の分野でMicrosoftがシェアを奪ったという実績は見当たらない。今後も、大企業市場に対してMicrosoftが食い込むことはないだろう。

 これらを総合的に考慮すると、2015年時点の市場シェアとして25%という予測が成り立つ。

 なお、仮想化に取り組んだ場合、中小企業の方が大企業よりも、より仮想化が進みやすい。大企業の場合はステップ1、ステップ2といったように段階を踏んで仮想化を進めていくが、中小企業の場合はサーバー台数が少なく、段階を踏まえることなく一回で短期的に仮想化が完了するからだ。

仮想化の段階によってワークロード当たりの要求は異なる

大企業の仮想化は段階を踏む必要があるのか。

 現状では、ワークロードの40%程度が仮想化されている。この段階では、仮想化によって非常に高い効果が得られている。しかし、だからといって、残りのワークロードを仮想化した場合に、これまでと同じように高い効果が得られるわけではない。

 仮想化を進めていった際に、一つのワークロード当たりのコストがフラットに推移するわけではない。まずは仮想化しやすいワークロードから優先的に仮想化しているため、後で仮想化するワークロードには、初期段階で仮想化したワークロードよりも仮想化に伴うコストが余計にかかる。

 データベースサーバーやメールサーバーなどのワークロードは、最後まで仮想化されないワークロードとして残る。こうしたワークロードが要求するハードウエアリソース(メモリー、I/O、ネットワークなど)は、初期の段階で仮想化したワークロードとは大きく異なる。

 概して、ワークロードの40%までは、極めて高い効果が得られる。しかし、ガートナーでは、ワークロードの80%までは比較的容易に仮想化できると考えている。100個のワークロードのうち80個を仮想化した場合、10個の仮想サーバーを1台の物理サーバーで実現すると、仮想化していない20台のサーバーと合わせて28台のサーバー機を運用することになる。

 複数のワークロードを1台のサーバーに統合することは、すべての卵を一つのバスケットに入れておくようなものだ。運用次第では、赤い卵や白い卵があるのに、それらをすべて金の卵であるかのように、同一のサービスレベルで扱わなければならなくなる恐れがある。個々のワークロードについてどれだけのサービスレベルが必要なのかを理解しておくことが必要だ。

要らないワークロードはなくしてしまえ

仮想化を進める際のベストプラクティスはあるか。

 重要なことは、投資すべきポイントをしっかりと把握することだ。最悪なのは、問題が発生した際に、根本原因の改善ではなく、別のところに予算を回して解決する姿勢だ。こうなるとコストが増えてしまう。

 もっとも効果的なやり方は、ワークロードをなくしてしまうことだ。ガートナーでは、仮想化に取り組む際には、その一環としてワークロードの10%を合理化することを推奨している。企業には、そもそも必要のないワークロードがある。システムを見直す際に無駄を省くことで、大きな効果が得られる。