「今は情報化社会の中間地点。後半に向けて、創造的破壊が不可欠」――。こう主張するのは、米ガートナーリサーチのマーク・ラスキーノ バイスプレジデント兼ガートナーフェローだ(関連記事)。同氏は、これまでにITの専門家が蓄積した経験が今後の足かせになり得ると同時に、影響力が増す一方のITを正しく活用する倫理観が求められると指摘する。これから成熟期を迎えるITの位置付けとそれを使いこなすIT専門家の心構えについて聞いた。(聞き手は田島篤=ITpro

米ガートナーリサーチ  バイスプレジデント兼ガートナーフェロー マーク・ラスキーノ氏
米ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼ガートナーフェロー マーク・ラスキーノ氏

情報化社会を俯瞰すると、今がその中間地点なのか。

 我々は今、60年から80年ほど続くであろう情報化社会の中間にいると認識している。これは、技術革新が経済や社会に与える影響について研究している経済技術学者のカルロタ・ペレス(Carlotta Perez)氏の主張に基づくものだ。

 ペレス氏の説では、技術革新が世間に広く行き渡る前段階として、景気後退が起きるとしている。技術革新が起き、過度の期待と投資からバブルが発生し、それが崩壊してから世間に普及する。この崩壊時期には、景気が不安定になるというものだ。情報化社会においては、今がその時期であり、中間地点といえる。

 この前提に立って情報化社会を前半と後半に分けると、次のようになる。技術革新からバブル崩壊までが新規技術の導入期となる前半で、それ以降が世間に普及して成熟していく展開期となる後半という位置付けだ。

来る情報化社会の後半に向けて、創造的破壊が不可欠と主張している。その理由は。

 情報化社会の前半を振り返ると、情報化のインフラを形成する期間だった。IBMやHP、Cisco Systemsといったコンピュータベンダーあるいはネットワーク機器ベンダーが主導権を握ってきた。これらは情報化のインフラを支配してきた企業だ。しかし、来る後半では、インフラを活用する企業に主導権が移る。その兆候はすでに出てきている。例えば、GoogleやFacebookなどだ。

 ここで問題になるのは、情報化社会の前半に経営者やIT専門家が学んだことは、後半では通用しなくなることだ。そこで、経済学者のヨーゼフ・シュンペーターの言葉を借りて、創造的破壊が必要といっている。

これまでの常識が通用しなくなる?

 一例だが、「コンピュータは高価なもので大手企業しか先進的なシステムを使えない」という常識はもはや当てはまらない。クラウドサービスの普及により、たとえ個人であっても先進的なシステムを手軽に使えるようになった。

 同様に、「ITシステムは資産である」という考え方も古くなった。ノートPCなどいまだに資産計上していると思うが、実態としては使い捨ての消費財に近くなりつつある。また、自社で作り込んだITシステムは、資産ではなく、今後の負担になることもあるだろう。

 このように過去の常識が通用しなくなるので、ITの専門家たちがこれまでに培ってきた経験が役に立たなくなる。場合によっては、過去の成功体験が今後に向けての足かせになる。ITの専門家は、過去に得た教訓から解き放たれるべきだ。