情報化社会の変革期にある今、企業における情報活用戦略も大きく変わろうとしている。それを支えるCIO(最高情報責任者)をはじめとするITリーダーの役割も変わらざるを得ない。どのようなスキルを身に付ければ経営者あるいは顧客からの期待に応えられるのか。米ガートナーリサーチのスティーブ・プレンティス バイスプレジデント兼ガートナーフェローにITリーダーの新たな役割と求められるスキルについて聞いた。(聞き手は田島 篤=ITpro

CIOをはじめとするITリーダーには、従来の役割のままでよいのかという危機感を抱いている人が少なくないようだ。

米ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼ガートナーフェロー スティーブ・プレンティス氏
米ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼ガートナーフェロー スティーブ・プレンティス氏

 そうかもしれないが、まだまだ多くのITリーダーが技術だけに注目している。これまではIT関連の技術に詳しいだけでよかったかもしれないが、今後はそれだけでは不十分だ。IT技術が社会やビジネスに対し、どのような恩恵をもたらすかについてもしっかり理解しておくことが必要になる。

 企業においては、競争優位性を高めるために、どの技術をどのように使えば新たなビジネスチャンスが生まれるのかを見極める能力が求められる。ITリーダーには技術の目利き力が期待されていると同時に、それを生かしてビジネス上の結果を出す責任も伴うようになっている。

 ビジネスチャンスに結び付く技術トレンドを見極めるには、技術だけを見ていてはダメだ。どういった技術トレンドがどのように台頭してくるかを調査し、その活用度合いを推し測ることが欠かせない。私はこの手法を「ホライゾンスキャンニング」と呼んでいる。

 ホライゾンスキャンニングで重要なことは、広範囲な視野を持つことだ。技術トレンドに加えて、「技術が個人や社会の行動様式をどのように変えていくのか」ということについても知っておかなければならない。

技術はもはや重要ではない?

 そんなことはない。ITリーダーにとって、さまざまな技術に詳しいことは依然として大切なスキルだ。それを欠いてはいけない。しかし、それだけでは、経営者あるいは顧客の期待に応えられなくなっているのも事実だ。

 例えば、携帯電話やスマートフォンの普及は、人々の振る舞いを大きく変えた。デバイスの進化が、個人の行動様式にどれだけ影響するのか。さらに、行動様式の変化が自社のビジネスにどれだけ影響を及ぼすのかを正しく把握することが重要だ。

 また、ビジネス環境全体の変化についても知っておく必要がある。グローバル化が進む中、世界規模での経済動向を把握したうえで、自社のビジネス活動への影響を考慮しなければならない。

 こうした個人や社会の行動様式の変化、ビジネス環境の変化は相互に関連しており、次第に複雑化している。それでもなお、先を見通すためにITリーダーは、技術、社会、ビジネスという3つの領域を見渡して、技術が社会やビジネスにどのようなインパクトを与えるかを理解しておくことが求められる。

CIOやITリーダーに求められる責務が大きすぎないか。

 確かに大きな責務だ。しかし、それだけ期待されているということでもある。

 従来、IT部門は、企業内のITだけを管理してきた。企業の内外に明確な境界線があり、IT部門は企業内のドメイン(領域)だけに限定されたシステムの構築運用を担ってきた。

 しかしながら、ITが社会に浸透するにつれて、もはや企業の内外を区別する境界線がなくなりつつある。自社システムだけでなく、エンドユーザーとなる顧客のIT化、あるいはビジネス上のパートナー企業のIT化を理解したうえで、これらのITシステムとの接続性、協調性、安全性などを考慮して、新たなビジネスを創生できるITシステムを作り上げなければいけない。

 IT部門の仕事がこれまで以上に複雑で困難になっているのはまぎれもない事実だ。