クラウドやスマートフォン/タブレット端末、ソーシャルネットワーキングといった比較的新しいIT技術により、企業における情報活用戦略が大きく変わろうとしている。2012年の戦略的テクノロジートップ10を発表した米ガートナー リサーチのカール・クランチ バイスプレジデント兼最上級アナリストに、トップ10リストに挙がった技術が企業情報システムに与える影響について聞いた。(聞き手は田島篤=ITpro

今回のトップ10リスト(表1)を見ると、リストを構成する技術要素は大きく「クラウドコンピューティング」「スマートフォン/タブレット端末(マルチデバイス)」「ソーシャルコンピューティング」の3分野に集約できるのではないか(関連記事)。

表1●2012年の戦略的テクノロジ・トップ10
人の視点モバイルタブレットと次世代型製品
モバイル・セントリック・アプリケーションとインタフェース
コンテキストとソーシャル・ユーザー・エクスペリエンス
人の視点とビジネスの視点インターネット・オブ・シングス
ビジネスの視点Appストアとマーケットプレイス
次世代アナリティクス
ビジネスの視点とIT部門の視点ビッグデータ
IT部門の視点イン・メモリー・コンピューティング
超低消費電力サーバー
クラウドコンピューティング

 「クラウド」「マルチデバイス」「ソーシャル」は、トップ10リストに含まれる技術のほとんどをカバーしている。これらの3分野に着目するのは、現在の技術トレンドを考えるうえで、よい切り口になるだろう。「超低消費電力サーバー」のように3分野に当てはまりにくいものもリストには含まれているが、全体的には「クラウド」「マルチデバイス」「ソーシャル」が大きなトレンドといえる。これらが今後の企業情報システムに大きな影響を与えていくだろう。

今回のトップ10リストから、各技術を分類する項目として、「人の視点」「ビジネスの視点」「IT部門の視点」が加わった。

 現在は、情報化社会の大きな変革期にあり、物事の見方や振る舞いが劇的に変わろうとしている。ITがビジネスに与える影響やITの効果的な活用方法も、従来とは大きく変わろうとしている。

 こうした時には、今までから一歩下がった視点で、言い換えればより全体を見通した視点で技術をとらえることが重要だ。単に技術について知るのではなく、「この技術が人に対してどのような影響を与えるのか」、あるいは「ビジネスやIT部門に対してどのような影響を与えるのか」をしっかり理解したうえで、各技術の活用方法を考える必要がある。それを示すために、今回から「だれに対して大きなインパクトを与える技術なのか」という視点をリストに加えた。

米ガートナー リサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト カール・クランチ氏
米ガートナー リサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト カール・クランチ氏

トップ10リストの技術要素は、相互に関連しているように思える。

 その通りだ。「だれに対して」という視点と同様に、一つひとつの技術だけに注目するのではなく、それらのつながりについても考慮することが重要だ。例えば、タブレット端末を考えるときに、機能・性能だけを見ていては、その本当の価値が分からない。どこでもつながるネットワーク環境とApp StoreやAndroid Marketのようなアプリケーション配信環境が整備され、動画配信や電子書籍などさまざまなサービスがいつでも得られることで、タブレット端末の価値が高まるからだ。

 個人に対するタブレット端末の価値が高まり、全体の台数が増えてくると、その影響力はさらに大きくなる。例えば、ビジネス分野でもどういう価値が見いだせるのか、どのようなサービスが重要になるのか、という視点が必要になるだろう。

 このようにタブレット端末だけを取り上げても、関連するさまざまな技術要素があり、それらが相互に作用して人やビジネスやIT組織に大きな影響を与えるようになる。特定の技術単体に着目するのではなく、複数の技術のコンビネーションによりさらなる価値が生まれるということも忘れないでほしい。

「人の視点」とか「ビジネスの視点」とかを見ると、トップ10リストはもはやCIOやITリーダーだけのものではないのでは。

 今回のトップ10リストは依然として、CIOやITリーダーに向けたものだ。彼らが、今後3年間で企業に大きな影響を与える可能性を持つ技術を知るために提供している。

 ただし、ガートナーが依然からITのコンシューマライゼーションという言葉で提唱しているように、コンシューマ向けのITが企業情報システムにおいても適用できるようになっている。ITが広く社会に行き渡るにつれ、CIOやITリーダーは顧客のことをよく知るために、コンシューマ分野やビジネス分野といった隔たりを超えてITがどのように適用されていくのかを把握しておく必要がある。