インド人“システム屋”と日本人“システム屋”の会話
ダメな“システム屋”の会話 インド人“システム屋” 「日本人はシステム開発に向かない民族だと思う」
日本人“システム屋” 「なぜそう思うの?」
インド人 「要件定義ができない。要件は定義するものではなく、“発見するもの”だと思っている」
日本人 「どういう意味?」
インド人 「要件定義を済ませて設計段階に入っても、次々に新しい要件が出てくる」
日本人 「そういうことは、ちょっとあるかもしれない・・・」
インド人 「後から重要な要件を言い出した人が、英雄視される傾向すらある」
日本人 「そんなことはないよ」
インド人 「いや、それまでの検討メンバーが気づかなかった点を発見したということで、ヒーローになることがある」
日本人 「うーん、そういうことも、たまにはあるかもしれない・・・」
インド人 「そもそも、日本人は定義という言葉の意味を知っているのか。nは整数だと定義するという前提で問題を解こうとしているのに、途中で『nは2.1かもしれない』みたいなことを言い出すのは、日本人だけだ」
日本人 「うーん、そういうことも、ときにはあるかもしれない・・・それは困るよね」
インド人 「ま、くよくよするなよ。日本人には日本人の良いところがある。システム開発に向かないだけで、たとえばオフィスの美しさには驚嘆するし、買い物をしてお釣りをごまかす店員もいない。こんな国は世界で日本だけだ」
日本人 「はは、そうですか・・・(それはお世辞?フォロー??)」

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ダメな理由:「定義」を変えたがる

 今回のエピソードは実話をほぼそのまま再現したものです。1990年代後半、日本に売り込みに来たインド人“システム屋”であるソフトウエア開発会社の経営者と、日本のITベンダーに勤務していた日本人“システム屋”である私の2人が、ニューデリーにある彼の自宅で議論した内容を思い出して、できるだけ忠実に再現しました。

 インド人“システム屋”の彼の会社は、既に米国と英国から仕事を請け負っていましたが、日本からも仕事を得ようとして来日した際に、私と彼は知り合いました。数年後、実際に日本企業の仕事をいくつかこなしたうえで、彼が「もう日本からの仕事はやめる」と言うので、なぜだと私が聞いた質問に答える格好で、冒頭の会話がありました。

 この会話をした時点で、彼の会社はかなり大きくなっていて、米英だけでなく欧州各国やオーストラリア、さらにサウジアラビアからも仕事を請け負うようになっていました。多くの国の仕事をこなす中で、最も高い単価をもらっていたはずの日本企業の仕事をやめる理由は、「要件が途中で何度も変更・追加されて、結局は一番儲からないからだ」というのです。

 私は日本人“システム屋”として最初は反論を試みましたが、結局、彼が言うことが正しすぎて、反論になりませんでした。