今年7月、トヨタ自動車はLinuxの普及促進団体である「The Linux Foundation」にゴールド会員として加入した。同社は、“次世代車載システム”にLinuxを使う方向で検討している。車載システムのプラットフォームがLinuxとなる可能性は高い。

 次世代車載システムとは、カーステレオや動画のマルチメディア、カーナビやWebサイト検索などの情報提供、メールや電話などのコミュニケーション、スマートフォンとの連携などの機能を統合した自動車内のシステムを指す。いまIVI(In-Vehicle Infotainment)と呼ばれ、注目を集めている。

 トヨタがIVIの基盤としてLinuxに注目している理由を、次世代IVIの開発責任者である、第1電子開発部主査 村田賢一氏はこう述べる。「いまこうした分野のシステムを1社で構築するのは難しい。“オープンイノベーション”として各社が協業して作っていく必要がある」。

1社では対処できない大きな課題

 Linux Foudationに参加した理由としては、「IVIシステムに必要な要求を、Linux OSに対して出していくためだ」(同)。多くの自動車メーカーがIVIに積極的に取り組んでいるが、IVIには従来のミッションクリティカルな企業システムや組み込み系システムとはまた異なる大きな課題がいくつかある。

 1つは、安全性が確保できるのか、という点。当然、運転の邪魔になるようなシステムでは問題がある。電源が安定していないなか、適切に動作する必要がある。もし、止まったとしても簡単に復帰できなければ、リセットボタンを押す作業が必要となり事故につながりかねない。「自動修復やリカバリーの技術の導入も必要となるだろう」(村田氏)。

 次に、音声認識や音声指示の機能。車では声による操作が基本になる。加えて複数の機能/アプリケーションからのレスポンスも音声になるが、マルチプロセスで実行する際、その音声出力の優先順位が正しくなければ、危険を伴う場合も出てくる。

 機能面での要求は多いのに対し、開発者は少ないのも課題だ。高速起動、音声認識、ネットワーク、リアルタイム処理など各種要求がある。これらを開発するために、Linuxをプラットフォームとしてメーカーが協力して開発した上で、その上のアプリケーションを、ITベンダーをはじめ協力会社と作っていく、という状況を必要としている。

 既にBMWグループをはじめ自動車メーカーと機器メーカー/ソフトベンダー各社は、2009年3月から「GENIVI」と呼ぶアライアンスを組み、IVIの共通プラットフォームのリファレンスを開発している(図1)。同リファレンスはオープンソースソフト(OSS)を使って開発される。

図1 GENIVIプラットフォームのビジョン
図1 GENIVIプラットフォームのビジョン
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 ただ、トヨタはGENIVIに参加していない。「取引先企業が参加しているため、現実点で積極的に発言する必要はない」(村田氏)という。Linux Foundationを選んだのは、トヨタからの要求が他の業界にも共通的に求められるものと考えたからだ。