先日、某会合で会議マネジメントについて議論する機会があった。会議の生産性をどのように上げるかといったよくあるテーマだったが、その議論に参加しているときに、ある対照的な二つの会社のことを思い出した。

 その2社を仮にA社、B社としよう。ある時期に前後して、その2社と仕事をする機会があった。A社とB社の業種は異なるが売上高は同規模であり、コンサルティングの仕事の範囲とボリュームもほぼ同程度であった。

 A社はあらゆる面できちんとしていた。A社のメンバーは全員きちんと会議の開始時間を守る。だいたい2~3分早めに来ている。欠席の場合は事前にそれが周知されている。遅れて参加する場合も「別の会議で30分程度遅れる」と連絡があり、実際にほぼ正確に30分遅れで来るのである。また会議時間が2時間と決まれば、その時間内に終わらせることを強く求めた。したがってファシリテータは常にその会議の目標を意識し、議論を的確にゴールに持っていくため全力を尽くした。

 一方B社は時間にルーズなメンバーが多かった。会議の開始時間になってもメンバーがそろわないのはいつものことで、大抵5分~10分遅れてようやく集まる。それでも欠けている人がいて「○○課長はどうした?誰か呼んできて」「急用で先ほど外出したそうです」といったやり取りが日常茶飯だった。始まりがこれだとファシリテータがどんなに気合を入れてもなかなか会議は引き締まらない。

 2社は、「宿題」への対応も全く違った。会議の後、双方が持ち帰りで作業し、次回までに資料を作成することはよくある。A社の案件では基本的に、次の会議の2日前までに宿題を終わらせ、相手にメールで送るルールとした。これだと遅くとも会議前日には資料に目を通して、必要な準備ができる。ところがB社では、宿題をやってこないメンバーが多くて閉口した。会議当日になって「ごめんなさい、忙しくて…」、あるいは急きょ欠席。これが何度も続くと仕事にならない。筆者はたまりかねて抗議したこともあった。

 さらに細かいところにも違いがたくさんあった。例えばホワイトボードのペンである。A社は、黒赤青緑すべての色でかすれて書けないペンが置かれていたことは一度もなかった。逆にB社のペンはまともに書けるものが少なく、いつもかすれた字を書くしかない。そのペンがそのまま放置されるので、次回もまたかすれるのである。

 資料の印刷にも両社の違いは如実に出た。A社では全社的な経費削減が徹底しており、なるべく両面印刷にして新規の資料か前回から変更点のあるものだけを印刷していた。紙やトナーが節約できるだけでなく、資料そのものが少量で済むので、必要なものが見つけやすく管理も楽であった。B社では毎回ジャンジャン印刷物が出てきた。例えば10枚の資料で変更点は1枚だけなのに、残りの9枚も印刷されるのである。同じものが何度も配布され、資料のほとんどが即シュレッダー行きであった。それでもB社の壁には「コスト削減」のスローガンが張り出されていたのがむなしい。

 冒頭にA社とB社はほぼ同等の売上高であることを述べたが、営業利益はA社がずっと優秀である。両社の違いはまさに「一事が万事」の典型であった。その違いは経営者の力量の差や社風の違いと言ってしまえばそれまでだが、一つひとつの事柄はささいなことである。会議時間を守る、宿題はちゃんとやる、書けないペンは捨てる、無駄な印刷はしない。整理整頓以前の当たり前のことである。

 この当たり前のことをきちんと守れるチームや会社は強く、できなければ弱いのだ。しかし、当たり前のことをやり続けることは難しい。筆者も自分のメタボ腹を見ると偉そうなことは言えない。今さらながら「継続は力なり」という言葉の重みを感じずにはいられない。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)、