多様な考え方、立場の人たちに対し、企業システムの複雑な情報を説明する機会の多い敏腕ITエンジニアの「説明の極意」を紹介してきた本連載。最終回は少し趣向を変え、多くの受験生を引き付けてやまないカリスマ塾講師に説明の極意を聞いた。登場するのは、大学受験予備校大手の東進ハイスクールで数学を教える志田晶さん。ビジネスの場面でもすぐ役立つスキルを披露してくれた。

 数学の塾講師にとって最も重要なスキルは、数学の能力ではない。数学の能力は一定水準を超えれば、あとはいくら高めても、いい授業ができるかどうかにあまり関係しない。ものをいうのは説明力だ。説明力を磨くほど、分かりやすく引きつけられる授業ができるようになる。そのために日々試行錯誤しながら、自分の説明力を磨いてきた。その工夫を三つ紹介しよう。

■間の取り方で、話はわかりやすくなる

東進ハイスクール 数学科 講師の志田晶(しだあきら)さん(写真:ナガセ)
東進ハイスクール 数学科 講師の志田晶(しだあきら)さん(写真:ナガセ)
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 一つめは、間の取り方である。理解しやすい話し方をするには、適度な間を空けることが重要だ。そのために実践しているのは、自分が話したことを頭のなかの別の自分が聞いて理解する、という工夫である。

 「ここの角度とここの角度は足すと180度になるよね」と自分が話したとき、頭のなかでその言葉を聞いて「確かに足すと180度になるな」と確認する。理解してから次の言葉を発する。こうすることで、生徒が私の話を理解するために最小限必要な間が生まれる。

 この工夫を実践すると、最初は慣れないかもしれないが、続けるうちに誰でもスムーズにできるようになると思う。

■相手に応じて伝える情報を絞り込む

 二つめの工夫は、話をシンプルにすることだ。そのためにまず、生徒のレベルに応じて伝える情報を絞り込む。数学が得意でない生徒向けの授業では、セオリーといえる解法だけを示し、難関大学の入試で必要になるような例外的な解法には一切触れない。もし「例外的な解法もある」と少しでも触れると、生徒はそれが印象に残るからだ。