周囲から「説明がうまい」と評価されるITエンジニアの「説明力」は、IT業務担当者はもちろん、それ以外の多くのビジネスパーソンにとっても注目に値する。企業システムの複雑な情報を、ITに疎い経営層、立場の違う利用部門、考え方が必ずしも一致しない開発メンバーなど、多様な相手に説明してきた経験が豊富だからだ。本連載では、敏腕ITエンジニアたちが日ごろ実践している説明のテクニックを「七つの極意」としてまとめた。いずれも、プレゼンテーションのように周到な準備ができる機会に限らず、聞かれたその場で説明するときにも活用できるものだ。

 七つある説明の極意は、説明に入る前の「意識合わせ」の極意と、実際に説明するときの「表現」の極意に大別できる。今回(本連載の第2回)は、表現の極意を見ていこう。

表現の四つの極意――聞き手の「理解力」を引き上げる

 説明の前から場面を進めて、実際に説明していく際の表現の極意を四つ紹介する(図1)。相手に具体的なイメージがわくようにしたり、巧みな質問によって理解度を確かめたりすることによって、認識のズレや誤解を防ぐテクニックである。

図1●説明が難しい背景と七つの極意
図1●説明が難しい背景と七つの極意
ITの現場でエンジニアに求められる説明力の水準は高い。本連載では、そんな現場で培われた説明の極意を七つ抜粋。それらは「意識合わせ」の極意と「表現」の極意に大別できる。連載第2回となる今回は、表現の極意を紹介する。

【4】図や表を書きながら話す

 日本システムウエアの鈴木勝行さん(ITソリューション事業本部 基盤ソリューション事業部 インフラソリューション部 副部長)は数人での打ち合わせには必ず、シャープペンシルと、ページごとに切り離せるノートを持ち込む。何か説明をするとき、その内容をノートに図や表として書くためだ。

 よく書く図や表には、システム構成図、データの処理フロー図、システムの画面イメージ、画面遷移図、業務フロー図、ガントチャート[注1]、WBS[注2]、比較表などがある。「図や表を書けば、相手に具体的なイメージがわくのに加え、お互いの考えのズレを防ぐことができる」。例えば「インタフェース」といったときに、システム構成図を書くことで、どのシステムとどのシステムの間のインタフェースであるかが明確になる。

 鈴木さんは日ごろから、1人で考えるときもこうした図や表を書くことを習慣にしている。これにより、説明の場ですぐ図や表を書くことができるようになったという。

【5】iPadでリアリティーを高める

 説明にiPadを活用しているのは、マネーパートナーズソリューションズの小林由希子さん(システム部)である。小林さんの担当は、Webシステムの画面設計。親会社であるマネーパートナーズの利用部門の担当者から要求をヒアリングし、それを基に設計した画面を説明する機会が多い。

[注1]プロジェクトのスケジュールを管理・表現するための図。「線表」「バー・チャート」とも呼ぶ。横軸が時間、縦には作業項目が並べられる。各作業の開始、終了日付の間を塗りつぶし、横棒の形状にする。
[注2]work breakdown structureの略語。プロジェクトマネジメントにおいて、計画を立てる際に用いられる手法の一つ。プロジェクト全体を、それを構成する細かい作業に分割し、図で表す。