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 2010年の12月ごろから海外のメディアなどでも大きく取り上げられるようになったハッカー集団「Anonymous」(写真1)――。米Amazon.com傘下のサーバーホスティングサービスや、ドメイン管理サービスの米EveryDNS.net、オンライン決済の米PayPalなどに相次ぎDoS(サービス拒否)攻撃を仕掛けたとされ、自らも犯行を主張する声明を出して物議を醸した。

写真1●ネットの自由求め抗議活動を行うハッカー集団「Anonymous」
写真1●ネットの自由求め抗議活動を行うハッカー集団「Anonymous」
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 その後も世界各地で相次ぎ攻撃が起こり、企業や国の重要システムが脅かされる深刻な事態となった。そうしたなか、米連邦捜査局(FBI)や英ロンドン警視庁をはじめとする世界の警察当局が捜査に乗り出しているが、その組織の構造から彼らを一網打尽にするのは難しく、今も両者の攻防が続いている。

Anonymousの実態、目的とは?

 Anonymousについては謎が多いのだが、欧米のメディアなどが伝えるところによると、グループは比較的緩いつながりで組織されている。10歳代から30歳代の若者が多く、その構造は“非中央集権的”。Anonymousはそもそも4chanという匿名の掲示板(オンラインフォーラム)から発生したと言われている。当初はサブカルチャーをテーマに交流する場としてハッカーたちが集まっていたが、やがてネットにおける言論の自由を訴えるようになり、その活動は、企業や政府機関を攻撃するものへと変わっていった。

 彼らの活動はオンラインフォーラムを中心に行われており、そこには活動別にチャンネルと呼ばれるチャットルームが多数ある。ここで彼らが、ネットの自由を脅かされたと主張する企業や公共機関の名が挙げられ、攻撃用ソフトの入手方法などの情報も交換される。これら個々のチャットルームには階層構造がないため、すべての活動を統括したり把握したりする人間はいない。またそこでは分派も発生しやすく、「LulzSec(Lulz Security)」と名乗る別のハッカー集団もこうした構造でAnonymousから出てきたと言われている。

 LulzSecの「lulz」とはネットの略語「LOL(laughing out loud=爆笑)」に由来する俗語。Anonymousが規制に反発し、政治的な主張や抗議を行う、いわゆる“ハックティビズム”活動を行うのに対し、LulzSecはむしろ世間から注目されることを楽しむ愉快犯の要素が強いと言われている。

 2011年4月にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のゲーム機向けネットワークサービス「PlayStation Network(PSN)」などが攻撃を受け、大量の個人情報が盗まれた。またFBIや、米中央情報局(CIA)、英国の重大組織犯罪庁(SOCA)、国際通貨基金(IMF)、米Lockheed Martinなどへの攻撃も相次いだが、LulzSecはこれらが自らの活動と主張し、その動機は「個人情報の保護強化を目的に、セキュリティ管理の甘いサイトを世間にさらすこと」と説明している。