2008年6月に東北内陸部を襲った岩手・宮城内陸地震。大規模な土砂崩れなどで20人を超す死亡・行方不明者が出た被害は記憶に新しい。

 実は,この地震では,2次災害と背中合わせの復旧現場で問題が持ち上がっていた。復旧工事に不可欠な測量に利用する経緯度の国家座標の運用が一時的にマヒし,利用できない状況になった。地震による地盤の変動によって,被災地付近にある電子基準点や三角点などが正確な位置からずれてしまったのだ。

mm単位の精密測位で常時監視

 そこで活躍したのは,GPS測位を使って斜面を監視するシステムだ。数百km離れた電子基準点と現場のGPS計測器による精密測位で,cm単位の精度で位置情報を提供した。復旧作業の安全確保の目的で導入した監視システムが,失った経緯度を確保する応急処置という副次効果をもたらしたわけだ。

 地震や集中豪雨などの自然災害で相次ぐ,大規模な地滑りや崖崩れへの社会的な関心は高まっている。住民に被害が及ぶ恐れがある「土砂災害警戒区域」に国土交通省が指定する地域は,2011年1月末の時点で19万4707カ所。未指定の場所を含めると,人家が下にある傾斜地の数はその数倍に膨らむとみられている。

 こうした傾斜地を常時監視する取り組みが,GPS関連機器の性能向上や価格低下,インターネットの普及で実現しやすくなった。岩手・宮城内陸地震で利用された斜面の監視サービス「shamen-net」を運用する国際航業の岩崎智治氏(社会基盤事業部 技術マネージャー)は,「防災意識の高まりで,ここにきて需要が拡大している」と話す。