スティーブ・ジョブズの訃報に際し、スティーブ・ジョブズ関連のベストセラー『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』の著者、カーマイン・ガロ氏に寄稿してもらった。

 スティーブ・ジョブズ最後の基調講演となった2011年6月のプレゼンを基に、ジョブズの伝説的なプレゼン手法を分析する。

 スティーブ・ジョブズが亡くなってしまった。世界にぽっかりと大きな穴が開いたように感じる。彼はテクノロジー業界と小売業界を変革し、世界有数の価値を持つ会社を作りあげた。その彼の魔法を(『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』と『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション―人生・仕事・世界を変える7つの法則』)の2冊の本で取りあげ、分析することができた私は幸せ者だ。

 2011年6月6日、アップルのWWDC(世界開発者会議)でiCloudサービスを発表したジョブズはものすごくやせていたが、それでも、彼の情熱はびんびんに伝わってきた。もちろん、スティーブ・ジョブズ流のプレゼンテーションテクニックも健在だった。では、そのスティーブ・ジョブズから、メッセージを自在に構築し、究極のプレゼンテーションをおこなうヒントを学んでみよう。

ツイッターの半分で書けるヘッドラインを作る

 使ったことのある人ならご存じのはずだが、ツイッターでは短い文をいくつか書くのが限界だ。ツイッターの半分に収まる程度の文で、自分が紹介しようと思う製品やサービスを紹介できるか、考えてみてほしい。

 スティーブ・ジョブズは必ずそうしている。新製品を(英語なら140文字、日本語なら)70文字以内で紹介するのだ。

 初代iPodのキャッチフレーズを覚えているだろうか? 「1000曲をポケットに」だ。

 ではiPadは? 「革命的で魔法のようなデバイス」だ。

(写真:Landov/アフロ)

 MacBook Airは「世界で最も薄いノートパソコン」だった。これだけで、新しいコンピューターについて多くのことが分かる。1文で多くを語るのだ。

 ジョブズが行った最後のプレゼンテーションはiCloudについてだった。紹介の一言は、「iCloudなら、自動的にコンテンツを保存し、さまざまな機器へワイヤレスで届けてくれる」である。ジョブズは常にこのテクニックを使うのだ。

ビジュアルに訴えるスライドを作る

 新しい情報は言葉と絵で示したほうが、言葉だけで示した場合より、ずっとよく聞き手に覚えてもらえるとスティーブ・ジョブズは理解していた。神経科学者が画像優位性と呼ぶ原理だ。情報を話して聞かせけただけでは、情報の10%しか記憶されない。これに絵を加えると、65%が記憶に残る。

 スティーブ・ジョブズがプレゼンテーションで使うスライドを見てみよう。画像が主体であることに気づくはずだ。言葉は少なく、写真が多い。

 2011年6月6日、iCloudの紹介にジョブズが使ったスライドのうち、最初の10枚には言葉が書かれていなかった―ひと言も、である。

(写真:AP/アフロ)

 ストーリーを支える絵や写真は見せたが、テキストもなければ箇条書きもない。それが大事なのだ。

 スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションは話を「補完」する。ほかのプレゼンテーションと違い、話そのものよりもでしゃばることがないのだ。

3点ルールを守る

 人が短期記憶で処理できる情報は、せいぜい、3点か4点にすぎないと研究により確認されている。

 もしそうなら、22点ものメッセージを発信しても意味がない。スティーブ・ジョブズは、プレゼンテーションを大きく3つのグループに分けておこなう(iCloudのプレゼンテーションも3種類の製品を紹介する3つの部分に分かれていた。その最後の3番目にiCloudが紹介されたわけだ)。3点ルールを必ず守ること―これが大事だ。

 誰でも、今より上手なプレゼンテーションができるようになる。そのお手本を、スティーブ・ジョブズは示してくれたのだ。

(翻訳:井口 耕二)