データ通信用として利用していた無線LANをそのまま使って音声通信を実現すると、音切れなどのトラブルが発生しやすい。電波の特性と音声の特性を考え合わせたネットワーク設計が重要である。

 スマートフォンの浸透とともに、今後は無線LAN経由で通話を実現する企業が増えることが見込まれる。無線LAN上で音声を扱うには、基本的に音声に適した機器・無線LAN環境が必要になる。ただ、導入に当たって既存設備を流用する場合が意外に多く、そのためにトラブルを招いているケースが少なくない。

人の移動が招く帯域不足

 A社はPBXのリース切れのタイミングに合わせて、音声系ネットワークを既存のIPネットワークに統合することにした。社内には以前導入した無線LANがあった。そこで既設の無線LAN機器を活用して社内・社外でシームレスなコミュニケーション環境を実現するために、デュアル端末も合わせて導入した。

 まず最初に、トライアル運用としてデュアル端末数台を導入した。アクセスポイント(AP)の配置に際して、サイトサーベイを実施し位置を決定した。無線LANの規格は802.11b。IEEE 802.1X認証ダイナミックWEPを使ってセキュリティを確保する設計である。トライアルでは特に問題はなく、ユーザーからも高い評価を得たため、全社導入に踏み切った。

 こうして全社で運用を始めると、すぐに利用者から「通話中に突然音が悪くなる」とクレームが入った。状況を聞くと、時間や場所に関係なく突然音声が途切れ始め、ひどい時には無音になるということだった。

1台のAP周辺に人が集中

 電波状況を確認しても、外来波やノイズ、電子レンジなどによる干渉は特に見当たらなかった。そこで各APを監視してみたところ、喫煙所スペース近くに設置してあるAPに接続が集中していることが判明した。

 1台のAPで同時に通話できる数には上限がある。上限を超えると音切れや通話切断などの障害が発生する。今回は人の移動により1台のAPに予想以上の通話が集中し、帯域不足が生じて音切れの原因となった。その影響は、新たに発生した通話だけでなく、通話中の端末にも及んだ。

図1●接続台数制限機能
図1●接続台数制限機能
接続台数制限機能ではアンテナのアイコンが表示された端末は通話をしていなくても接続している。最大接続台数を10とした場合、11台目以降の電話機は圏外表示になる。
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 最初の対策として、トラフィックが集中しているAPの近くにAPを増設し、負荷分散を試みた。しかし思うようにいかない。無線LANクライアントは一般に電波強度の強いAPに対してアソシエーションを試みるため、単にAPを増設するだけでは効果がなかった。

 最終的な解決策は、APの接続数制限機能を使うことだった(図1)。1AP当たりの最大接続台数を設定することで帯域を確保し、通話品質に影響を及ぼさないようにする機能である。