企業に無線LANの導入が広がってきた。どこでもネットワークにアクセスできる無線LANは、有線LANにはない便利さがある半面、トラブルが発生した際に何が起こっているかが分かりにくい。

 無線LANの電波の状態は周辺の環境に左右されやすく、これが悪化するとスループットの低下など通信品質に影響を及ぼしてしまう。

現場ごとに違う無線環境

 A社は新オフィスへの移転を機に、無線LANを導入した。新オフィスでは座席を固定しないフリーアドレス制を採用するため、それに合わせてネットワーク環境を無線化したのだ。A社は無線LAN規格にIEEE 802.11gを、セキュリティ仕様にはWPA2を採用した。IEEE 802.1Xの認証方式にはPEAPを、暗号化方式はAESを使う。

 アクセスポイント(AP)の配置やチャネル設計に当たって、工事前に現地で電波環境を調査することにした。調査に先立ってフロア図面を入手し、机上でAPを設置する場所にメドを付けておいた。現場では、事前に想定した場所にAPを仮設置し、電波強度を測定していく方法を取った。

 A社が要件として定めたリンク速度は36Mビット/秒以上。フロア全体にわたって、この速度を維持できるかを確認した。電波強度測定には、無線LANデバイス内蔵パソコンに付属していた接続ユーティリティーソフトを使い、同時に接続リンク速度を記録した。

 作業を進めていくと、ある地点に限りリンク速度が低くなることが分かった。その地点はAPからの距離は小さく、机上設計では十分な電波強度が得られると予測していた。

APの場所をずらすだけで改善

 この現象を無線LANアナライザーを使って確認すると、問題のある地点で接続したときにだけCRCエラーが多発していることが判明した。CRCエラーは、無線上でなんらかの原因でフレームが壊れている場合に発生する。

 無線LANでは、フレームが壊れて正常な送受信ができない場合に、送信側が再送を試みる。無線LAN機器が内蔵するデバイスドライバーには、ある一定の再送回数を超えるとリンク速度を落とし、送信の確実性を高めようとするものがある。こうした再送やリンク速度の引き下げによって、結果的に全体のスループットが低下する。

 無線上でのフレーム損傷の原因には、ノイズや干渉が考えられる。電波強度に比べてノイズや干渉の影響が大きくなると、通信品質が低下する。ノイズ源の一つに、電子レンジなど無線を使った機器からの電波がある。屋外で使われる無線LANからの電波もノイズ源となり得る。A社は周辺の環境を調査したが、ノイズや干渉の原因となりそうな機器を見付けられなかった。

 リンク速度の低下は特定の場所だけで発生していたため、APの設置場所を少し移動して再度試してみた。するとCRCエラーの発生はなくなり、最大リンク速度での接続が可能になってスループットが改善した。つまり原因はAPの設置場所にあったのだ。