2011年9月17日に米ウォール街で始まったとされる体制変革運動「Occupy Wall Street」。チュニジア、エジプト、スペインから大西洋をまたいで、米国でもソーシャルメディアが体制変革運動を伝搬、創発させている。社会変革のトリガーになることによってソーシャルメディアは進化してきたが、日本での社会変革運動はどのような形態をとるのだろうか。

東京農工大学大学院産業技術専攻 教授
松下博宣

 ソーシャル領域では、大量失業問題や格差社会への抗議運動である「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」が、Wall Streetでの活動にとどまらず全米に拡大している。太平洋をまたいで、小規模ながら日本にも伝搬する勢いも見せている。

 筆者がこの運動の初期情報に接したのは、今年7月に訪れた米国オレゴン州ポートランドである。資本主義の未来を議論する学術会議の後、仲間内の情報交換の場でのことであった。

 それは、「反消費社会などを掲げるカナダのバンクーバに本拠がある非営利組織Adbustersのカレ・ラスーンがインターネットを通じて行動を呼びかけている」という話だった。その会合のメンバーは、「まあ、その手の話はいっぱいころがっているさ。いずれポシャるだろうね」という感じだったのが妙に印象に残った。

 だが、2011年9月17日に、1000人もの人々がウォール街に集まり、100~200人がその界隈で夜を明かし、同19日にはニューヨーク市警察に7人が逮捕された、という情報に接して、ポートランドでの会話を思い出した。その後はソーシャルメディアを用いて情報をアップデートしてきている。10月第一週以降には、そのポートランドで大規模な抗議集会、デモがあった(#occupyportlandなど)。

 日本では、Occupy Wall Street運動は若年の失業者や低額所得者中心の運動であるかのような表層的な報道が幅を利かせている。これは大きな間違いである。

 現地からの運動参加者からの情報によると、ここ数週間で、この運動に参加する人々は、失業者、求職者は言うに及ばず、あらゆる社会階層に拡大している。一言で言うと、以前アメリカ社会の分厚い層を作っていたミドルクラスで下方に没落しつつある階層が中心だ。

 失業者、求職者はもちろんのこと、大学生、大学院生、自営業者、プロフェッショナル、退職者、中小企業経営者、医師、看護師、大学教授、科学者、評論家、政治家、宗教コミュニティー、自然愛好家、環境運動グループ、農林畜産業など幅広いバックグラウンドを持つ人々が参加しつつある。

 そしてこの運動自体が、全米の主要都市にまで拡大している。この運動はTwitter上で#OccupyWallStreet、 #OWS、 #Occupy、 #occupytokyoなどのハッシュタグで急速に拡大してきている。FacebookでもAnonymous(Occupy America)、Occupy Buffalo、Occupy Seattle、Occupy Houston、Occupy Chicago、Occupy Phoenix、Occupy Los Angeles、Occupy San Franciscoなどのコミュニティーが立ち上がり、全米70以上の都市、地域を巻き込んだ運動となっている。

自己組織的なムーブメントの背景

 この運動の言い出しっぺは前述したようにカレ・ラスーン氏とその背後に存在する勢力だが、表面的な抗議行動のオペレーションには今のところ、中央で統制、コントロールするような組織的な機能は見当たらない。リーダーらしいリーダーがいないのである。では、何がこの運動の真ん中にあるのかというと、それは現下の体制に対する大いなる問題意識と変革への鬱勃たる欲求である。かいつまんで言うと以下のようなものだ。