「仕事の基本シリーズ」の一冊だと聞くと、情報システム関連の仕事をしている方は「今さらプロジェクトマネジメント(PM)の教科書など不要だ」と思うかもしれない。しかし巻頭で著者が宣言する通り、本書の狙いは新事業開発など、業務変革を担うPMの基本を解説することにある。要件定義に従って情報システムを開発するような、「生産型PM」の教科書ではない。

 業務変革プロジェクトを成功に導くためには、「プロジェクトの前提を超える努力」や「オポチュニティの追求」が必要だと著者は説く。時には、プロジェクトの途中で目的を見直すことすらある。業務変革には新規の要素が多いので、前提通りに進めても成功できるとは限らない。前提や目的の変更を辞さない点が、生産型PMとの根本的な違いだという。

 業務変革は経営戦略に基づいて進められるから、プロジェクトを戦略に沿うようにデザインしなければならない。著者は本書の3分の2を費やして、プロジェクトの企画と計画の立て方を解説していく。

 企画段階で鍵を握るのは、プロジェクトの目的を決め、ヒト、モノ、カネを提供してプロジェクトマネジャーを任命する「プロジェクトスポンサー」だ。日本のプロジェクトではスポンサーが不明確な場合があるが、著者は「スポンサーの責任は大変重く形式的な役割では済まない」と指摘し、役割を詳しく説明する。

 スポンサーの重要性は、生産型PMにおいても同じである。ユーザー企業やIT企業の関係者は、システム開発を始める前に本書の読書会を開き、「今回のスポンサーは誰か」「役割をきちんと果たしてもらえるのか」などを議論するとよいだろう。

 業務変革のためのPMという難しいテーマを取り上げているものの、記述は平易であり初心者でも読み通せるはずだ。個別手法の解説は省かれているが、参考文献をあたれば知見を深めることができる。プロジェクトの経験が豊富な読者にとっては、論客として知られる著者ならではの鋭い指摘を探し出し、自分なりに考えてみるという楽しみがある。今回著者は基本事項の解説に徹しているが、それでも「日本企業にPMを導入する際、最も抵抗される点は責任と前提条件の明確化」「顧客にとってトレードオフは問題解決ではない」といった警句を所々に見いだせる。

プロジェクトマネジメントの基本

プロジェクトマネジメントの基本
好川 哲人著
日本実業出版社発行
1890円(税込)