商品不良の苦情など用件を伝えることに必死な一般の顧客とは違い、オペレーターと話がしたくて電話をかけてくる人が発する言葉からは「商品の利用シーンがありありと目に浮かぶ」(藤崎順平コミュニケーションズ&マーケティングエクセレンス本部コンシューマーリレーションズ部長)。こうした声はネスレ日本(神戸市)が最も欲しい情報だ。
ネスレには1日に4杯以上も同社のコーヒーを飲むようなロイヤルカスタマー(優良顧客)専用のコールセンターがある。1日100件ほど来る声の主はほとんどが主婦。オペレーターも同じ層で固める。
長く話せば響く言葉が見つかる
さらにユニークなのが運営方針。「とにかく長い時間、会話をしてください」とオペレーターは長電話を奨励されている。センター内には通常のお客様相談室も併設されているが、こちらの会話時間はせいぜい1~2分。ところが優良顧客との電話は平均で5~6分、長い人になると30分を超す。顧客の声のトーンも、お客様相談室にかかってくる電話とはまるで違う。記者も実際に聞き比べてみたが、口調がとても柔らかかった。
優良顧客の中にはプライベートな話題を語り出す人もいて、どういう場面でネスレの商品が食べたり飲まれたりしているのかが分かってくる。社員にもこうした声にじかに触れてもらおうと、センターは2010年1月に「VOC(顧客の声)ポータル」という社内サイトを開設した(図)。「朝の1分チェック」をクリックすると、前日の声の件数を商品別に確認でき、声の原文も読める。
さらに顧客が会話中に使った表現から宣伝などに使える言葉を探すことも行っている。「センターに常駐する広告代理店の人たちと毎週、声の読み込み会議で“響く”言葉を拾っている」(藤崎部長)。例えば、インスタントコーヒーを頻繁に飲む人の「あの粒々が好き」「石(粒)の中においしさが詰まっている」といった独特な言い回しだ。
次回は、商品陳列をシミュレーションし、良しあしを顧客の目線で感じ取ろうと工夫している花王の事例を紹介する。