社員の体感性を高める手っ取り早い方法の1つは、顧客の生の声が聞けるコールセンターに一時でも身を置いてもらうことだ。初めて受話器を持った時、激しい怒鳴り声で電話をかけてくる顧客の存在をリアルに想像し、体を震わせる人もいる。

 こうした体感教育を実施している企業もあるが、体感できる人数には限りがある。皆がコールセンターに行けるわけではないし、業務時間中に受け入れるのは大変だ。声の録音を自由に聞けるようにするという手もあるが、全部聞くのは時間がかかるし、要点をつかみにくい。

 そこでコクヨは黒田章裕代表取締役社長の発案で、お客様相談室にかかってくる電話の中で、全社員が知っておいたほうがいいと同室が判断した録音を一言一句漏らさず文字にし、全社に公開した。それが2010年1月に始めた「Voice Clipウィークリー」である()。録音を文字にするスタッフを3人確保したほどだ。

図●コクヨはお客様相談室に寄せられる声を録音し、スタッフが中身をそのまますべて文字にして社員に開示する「Voice Clipウィークリー」を2010年1月から始めた
図●コクヨはお客様相談室に寄せられる声を録音し、スタッフが中身をそのまますべて文字にして社員に開示する「Voice Clipウィークリー」を2010年1月から始めた
コールセンターの臨場感を現場にダイレクトに伝える。なかには厳しい「お怒りの声」もあり、全文を読むと体感がより一層高まる
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 声の全文入力を始めて分かったことは「要約を打ち込んだだけでは貴重な情報が抜け落ちたり、『声の現場』の臨場感が薄まったりする」ことだった。これでは体感が弱まり、当事者意識が生まれにくい。従来、オペレーターは電話を切った後に会話内容の要約だけをデータベースに入力していた。だが全文入力と比べると情報が欠落していた。

利用環境が見えると体感が高まる

 オペレーターは顧客の困りごとを聞き出して回答することに集中しているため、それ以外の言葉が頭から抜け落ちることがある。商品開発担当者が全文を読み返してみると、困りごとは別のところにあったと気づいた案件も見つかった。「お怒りの声」を読んでも「苦情の中にお褒めの言葉が含まれていたり、どんな状況で商品を使っているのかを知る手がかりが隠れていたりした」とコクヨビジネスサービス(大阪市)の脇寛美お客様相談室長は話す。商品の利用環境が見えると途端に情報の受け手である社員の体感性は高まる。