発火事故を機に社員への体感教育を強化した企業は日立アプライアンスだけではない。富士ゼロックスでは2002年9月に小型プリンターの発火事故が起き、約26万台を対象に無償の部品交換を実施した。

 この教訓を風化させないため、2008年から毎年1回、「商品安全フォーラム(安全を考える日)」という展示会を社内で開催している(写真)。会場では事故品を展示。毎回1000人ほどの社員が詰めかける。「『形骸化させないための仕掛けが必要だ』と経営陣から示唆があり、2008年から事故品の展示会に踏み切った」と芳賀光史品質本部環境商品安全部長は語る。

写真●2002年9月に発生したプリンターの発火事故の記憶を風化させないため、富士ゼロックスが2008年から毎年実施している「商品安全フォーラム(安全を考える日)」
写真●2002年9月に発生したプリンターの発火事故の記憶を風化させないため、富士ゼロックスが2008年から毎年実施している「商品安全フォーラム(安全を考える日)」
2008年は発火の再現実験(右上)や記者会見の様子(右下)をビデオ上映したり、再現模型を陳列したりした。2009年は回収した過去の事故品を展示。事故を知らない若い世代は現物やビデオを見ると鳥肌が立つほどのインパクトを受ける。山本忠人代表取締役社長など経営陣も会場に足を運んだ(左)
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顧客に迷惑をかけたことも実感

 もちろん、同社ではたばこ1本分の煙が出ても「重大事故」として経営陣に伝える事故対応体制など、再発防止・危機管理の仕組みも整えてきた。だが発火事故から既に8年が経過し、内容を知らない社員が全体の30~40%まで増えた。工場で働く作業者に至っては80%近くが事故を知らないという。だからこそ事故を体感してもらう機会作りが必要だと考えている。

 商品安全フォーラムの展示ブースには、プリンターを燃やした時の再現模型を置き、発火再現実験のビデオ上映会まで開く。併せて会場では発火事故について記者会見する経営陣の姿を報じたニュース映像を流し、当時の新聞記事を並べる。どれだけ顧客に迷惑をかけたのかを実感してもらうためだ。

 展示会当日は山本忠人代表取締役社長など現在の経営陣も会場に足を運び、プリンターの前面が黒焦げになった様子を間近で確認しながら担当者に質問をする。2009年には過去の事故品で回収できた物をそのまま展示するなど、毎回少しずつ趣向を変えている。

 過去2年の展示会は想像以上に社員に衝撃を与えたようで、中には「実物を見て鳥肌が立った」と話す人までいた。報告書を読んだだけではこれほどのインパクトは伝わらなかっただろう。プリンターが燃える光景を直接見た顧客に近い恐怖感を社員に体感させている。

 次回は、新入社員を同行して顧客宅を訪問し、インタビューや生活観察などを行うオイシックスの取り組みを紹介する。