企業の課題を社員の“自分事”にする鍵は「体感」

 コンプライアンス強化やリスク管理、顧客満足度向上といった各種改革活動を推進しようとすると必ず浮かび上がる課題がある。それは「社員の当事者意識をどうやって高めていくか」。各社はここに共通の悩みを持っている。そうした心の変化を働きかけるには、品質管理ミスがもたらす事故の恐ろしさや、顧客の喜びや怒り、改善活動の楽しさ、といったものを体感してもらうことが効果的だ。本特集ではそうした「体感の機会作り」の工夫を紹介していく。

 企業が抱える課題に対して、社員一人ひとりに当事者意識を持ってもらう取り組みとして有効なものは何か。本誌が動向を調べた結果、社員の当事者意識を高めるには「経営トップからの絶え間ない働きかけ」と、「社員の五感を強く刺激する体感の仕掛け」の2つが同時に必要であることが分かった()。どちらか一方を欠いても社員の当事者意識は保てない。トップからの働きかけと体感の仕掛けは車の両輪に例えられる。

図●トップの働きかけと体感で経営課題を自分事に変える
図●トップの働きかけと体感で経営課題を自分事に変える

 トップの働きかけも体感の仕掛けも結局は社員の「経験値」を上げるものであり、その強さや頻度が社員の腹落ちを促す。例えばある部門の商品に品質問題が起きれば、それは全社員の問題と思えなければならない。部門が違えば他人事というのでは、同じ問題が別の部門でも起きるだろう。

 そうならないためにも、トップからの継続的なメッセージ発信と、ほかの部門の人でも問題を追体験できる体感が必要なのである。その結果、「これは私自身の問題なんだ」と社員一人ひとりが腹落ちした状態になる。他人事が自分事に変わる瞬間だ。時には何年もかかるが辛抱強く続けるしかない。

 そこで本特集では、社員の体感を高める手法を13種類紹介していく。「事故の疑似体験」「顧客と直接向き合う場作り」など、問題を肌身で感じさせ、深く印象を刻む工夫ばかりだ。今回はまず、発火事故を社員に疑似体験してもらう「死に様試験」という日立アプライアンスの取り組みを紹介しよう。