早い。早すぎる。スティーブ・ジョブズが逝ってしまった。

 「ジョブズの死で悲しいのは、彼がこれまでやってきたことではなく、これからやるかもしれなかったことが実現しなくなったことである。ジョブズが夢見ていた未来を見てみたかったな」

 ツイッターでこう、つぶやいた方がおられる。

 同感だ。1955年2月24日生まれの56歳。年齢だけから言えば、もうあと10年や15年は現役でいられたはずだ。彼の性格からして、悠々自適の生活に入るなど考えられない。元気である限り、全力で突っ走り、我々は想像もできていないから欲しいと思っていないが、見せられたら欲しくてたまらなくなるような何かをいくつも生みだしてくれただろう。

 ここまで生みだしてきたモノも、そういうものばかりだ。

この後もきっと何かをしてくれたはず、だった

 アップルの基礎を作ったアップルIにアップルII、GUIを世界に広めたマッキントッシュ、そして、アップル復帰後のiMac、iPod、iTunes、iPhone、iPad、さらにはピクサーのアニメーションなど、そのどれがなくても、人生が少しおもしろくなくなったり、仕事がやりにくくなったり、ほとんどの人がなにがしかの影響を受けるはずだ。

 この後もきっと何かをしてくれたはず。そう思うのは当然だし、ここで打ち止めになると考えるのはあまりに分の悪い賭けだったはずだ。少なくとも一部は今後何年かでアップルから出てくるのだろうが、それこそ、まだアイデアにもなっていないもの、これから思いつくはずだったものは見られなくなってしまった。残念だ。

 私は書籍の翻訳という仕事を通じて、ここ数年、スティーブ・ジョブズという人物をさまざまな角度から見てきた。

 2005年に発行された非公認の評伝、『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』(東洋経済新報社)のほか、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション―人生・仕事・世界を変える7つの法則』(ともに日経BP社)とジョブズ関連の翻訳を担当してきたり、まったく性格が違うもうひとりのスティーブ、『アップルを創った怪物―もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』(ダイヤモンド社)も翻訳を担当させていただいた。

 現在は、10月末の発売に向け、本人が初めて公認した伝記、『スティーブ・ジョブズI』『スティーブ・ジョブズII』(講談社)の準備を進めている。なお、『スティーブ・ジョブズ』については書籍が発売されるまで、何が書かれているのか、また、何が書かれていないのかなど、内容については一切口にしてはならないことになっているので、本稿についても、それ以外の書籍やウェブなどの情報に基づいた内容のみで構成している。

「もう1歩だ!」と激励するコーチのように

 ジョブズはさまざまな側面を持つ人物だ。そのさまざまな側面は、書籍やさまざまな記事、そして、有名な基調講演の数々、そしてスタンフォード大学卒業式の祝辞などに現れている。

 基本は、よくも悪くも「激しい人」だ。