企業にとって、ソーシャルメディア(ソーシャルネットワークサービス、SNS)の世界で最も気になるのは、いわゆる「炎上」と呼ばれる事態になることである。だが、自ら入り込んでいかないこと、つまりソーシャルメディア上でのコミュニケーションをやらないことこそが、リスクを最小限に食い止める方法という時代はとうに過ぎ去ってしまった。

 こうした変化の中で、その後企業のソーシャルメディアへのスタンスは、大きく二つに分かれてきた。

 ひとつは「社内統制を徹底し、従業員個人のソーシャルメディア上の活動も含めて規制しようとするスタンス」である。そして、もうひとつは「何もしなくてもリスクが存在するのであれば、むしろきちんとしたポリシー、あるいはガイドラインを設け、その上で積極的にソーシャルメディア上に情報を発信しようとするスタンス」である。これは半ばブームと化してしまった感があるほど「ソーシャルメディア ポリシー」が語られている一因ともいえるだろう。

 この二通りのアプローチは、ある意味どちらも間違ってはいない。ただし、どちらも決して完全とはいえない。従業員個人のソーシャルメディア上の活動をいくら規制しても、あるいは厳密なソーシャルメディア ポリシーを策定して徹底したとしても、企業とは全く無関係な人間の発言ひとつで「炎上」は十分に起こり得る。これが問題なのだ。

 これら2種類のアプローチに欠けているのは、「ソーシャルメディア上で交わされている会話をきちんと把握する」ということ。つまり「“ソーシャルメディア” と呼ばれている世界の動きを知る」ということである。

ソーシャルメディア上の声を聞こう

 ソーシャルメディア上の声を聞く活動。これは以前から「傾聴」という言葉とともに、その必要性が語られている。このためのツールやサービスを提供する事業者も少なからず存在している。ただ、こうした「傾聴」と呼ばれる活動は、語られていた割にはなかなか実践にいたらないものでもあった。

 自分たちのメッセージがどの程度の広がりを見せたかを確認するためにツールやサービスを使う企業は多くても、自分たちがソーシャルメディア上でどのように語られているかを定性的に確認するためにツールやサービスを使う企業は、それほど多くはない。それは、これらが「(ソーシャルメディアを利活用した施策の) 効果測定」という文脈の中で語られることが多い点からもうかがい知れる。

 だが、現在は自分たちが気付かぬうちにソーシャルメディア上での「炎上」リスクが増大する状況にある。そのような状況下では、ソーシャルメディア上における窓口の有無にかかわらず、これらのツールやサービスを使うことが急務となる。『自分たちがソーシャルメディア上でどう語られているか』を常日頃確認することによって「炎上」の火種をすぐに見出だすことができるし、場合によっては火種が小さいうちに的確なアクションを取ることが可能になるのだ。

自分たちの姿を知ることからすべては始まる

 「企業とソーシャルメディア」という文脈の中では、どうしても「いかに発信するか」というテーマが中心になりがちである。だが、「自分たちが、どのように語られているか」ということを常に把握することこそが実は重要になってくる。そして、そのように自分の会社を語っている顧客に対して、ソーシャルメディア上にメッセージを発信したり、あるいは企業としてソーシャルメディア以外でどのようなアクションを取るべきかを常に考えることが求められてくる。

 企業のソーシャルメディアとの付き合いは、ここから始まると言ってもいいだろう。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
バーソン・マーステラ リード デジタル ストラテジスト
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。早稲田大学卒業後、プロミュージシャンを経てIT業界へ。リアルネットワークス、コールマン・ジャパンなどを経て、マイクロソフト(当時)に入社。2009年より同社の「ソーシャルメディアリード」として、ソーシャルメディアマーケティング戦略を確立させた。その後、2011年2月よりバーソン・マーステラに入社し、リードデジタルストラテジストを務める。