第3回は、多くのスマートフォンに搭載されている「Snapdragonシリーズ」を開発している米Qualcomm、米アップルのiPad 2やiPhone 4Sに搭載されている「A5」プロセッサを開発していると言われる韓国Samusung Electronicsのプロセッサについて見ていく。

通信チップを組み合わせたQualcommのSnapdragonシリーズ

 米Qualcommは、携帯電話の通信方式であるCDMA方式を実用化した企業であり、携帯電話用の通信チップセットで大きなシェアを持つ。同社の「Snapdragonシリーズ」は、アプリケーションプロセッサと、通信チップ(ベースバンドチップ)を組み合わせた、携帯電話やスマートフォンを作るためのチップセットとでも言うべき製品だ。

 Sanpdragonシリーズは、ARMと同じ命令セット、アーキテクチャを採用してはいるが、そのアプリケーションプロセッサには、独自の実装をした「Scorpionコア」が含まれている。

 現在のSanpdragonシリーズは3世代目にあたる。開発中の次世代のSnapdoragonでは、新しいCPUコアである「Krite」を採用される(図1)。

図1●ARMv7アーキテクチャを採用しながらも、自社開発の独自コアScorpionを搭載する米QualcommのSnapdragonシリー
図1●ARMv7アーキテクチャを採用しながらも、自社開発の独自コアScorpionを搭載する米QualcommのSnapdragonシリーズ
デュアルコア版の出荷が予定されている。新しいCPUコアとなるKriteを搭載した8x64シリーズは、CPUクロック最大2.5GHz、4コアとなる予定。
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 独自の実装(図2)によって、他社のプロセッサよりも高速化することを狙っているのも同社の特徴だ。実際、Snapdragonシリーズは、英ARMのCortexシリーズよりも先に、クロック周波数1GHzを達成している。ARM社からコアをライセンスするよりも開発コストが大きくなるという欠点もあるが、大量販売の見込みがあれば必ずしも不利というわけではない。

図2●SnapdragonシリーズはCPUや周辺回路、2G/3G通信のためのモデム(ベースバンドプロセサ)を含んでいる
図2●SnapdragonシリーズはCPUや周辺回路、2G/3G通信のためのモデム(ベースバンドプロセサ)を含んでいる
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 ただ、プロセッサの独自開発には長い時間が必要となる。実際の設計・製造だけでなく、検証などの時間が加わるからだ。特に最近では、英ARMのアプリケーションプロセッサの開発ペースが上がってきており、Cortex-A8~A15は約2年単位で、劇的に性能が向上しつつある。これに対抗するには、短期間で性能を向上させた製品を投入する必要がある。

 プロセッサ性能については、Scorpionは同等クロックのCortex-A8には勝るものの、アウトオブオーダーを搭載したA9プロセッサのほうが速度的には有利だと言われている。クロック周波数は、どのようなアーキテクチャであれ、高くすると消費電力を増やしてしまう。このため、同一の設計でクロック周波数を上げて性能を向上させることには限界があり、高速化するには新たにプロセッサを設計する必要がある。

 現時点で、Kriteがどのようなアーキテクチャであるのかは公開されていないが、クワッドコア(4コア)化が可能で、クロック周波数も最大2.5GHzに到達することが明らかになっている。これらの点から推測すると、現行の第3世代Snapdragonの3倍程度の性能向上は見込めるようだ。

 なお、Qualcommは独自のGPUである「Adreno」を持つ。これは、旧カナダATI Technologies(AMDが買収)が開発していたモバイル用GPU(当時はImageonと呼ばれていた)であり、AMDは2009年に担当部門をQualcommに売却している。

 つまり、SnapdragonシリーズはCPUコアだけでなく、GPUも独自開発であり、この点で他社に比べて大きな自由度を持つ。さらに、ベースバンドプロセッサについてもノウハウを持つため、1社でスマートフォンに対して完全なソリューションを提供可能だ。