IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

ITベンダーにて、前回から続く会話
ダメな“システム屋”の会話 若手“システム屋” 「先輩!さっきの少年サッカーコーチの話をもう少し聞きたいのですが」
先輩“システム屋” 「うん、いいよ」
若手 「小学生にサッカーを教えているということは、子供にとっては最初に教わるサッカーということになりますよね」
先輩 「そうだよ」
若手 「それは、学生生活を終えて新卒で我が社に入ってきた新人に教えるようなものじゃないですか」
先輩 「確かにそうだね」
若手 「10月に内定式を迎えた新卒者が半年後に入社して来ますよね。最初に教える時に、大事なことって何ですか?」
先輩 「ほう、いい質問だな。君の意見は?」
若手 「まず教えるべきなのは、基礎となる技術でしょうか」
先輩 「いや違うな。最初に教える、というより、身に付けてもらうべきなのは、闘争心あるいは競争心だな」
若手 「競争する気持ち、ということですか」
先輩 「そう、勝とうという気持ち。ルールにのっとって競争することが基礎技術よりも重要な基本中の基本だよ。競争する気持ちのない人は、それだけで戦う相手にとって失礼になる。これはスポーツでもビジネスでも同じだと思うよ」
若手 「ビジネスも競争ですか?」
先輩 「そりゃそうだよ。我々は資本主義に基づく営利企業に所属しているんだから」
若手 「なるほど。我々“システム屋”はあまり競争しているという実感がないかもしれません」
先輩 「そこが問題。競争していないスポーツでは上達するはずがないのと同じで、競争していないビジネスもまた進歩がない」
若手 「確かに、競争原理が働かなかった分野のビジネスは世界的な競争力を得られていませんよね」
先輩 「そう。スポーツでもそれを最初に知らなければ上手にはならない。私がコーチをしているサッカークラブでも、勝ちたい、うまくなりたい強く思っている子が、練習を重ねて、世界レベルのプレーヤーに成長しているよ」

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ダメな理由:競争原理を理解しようとしない

 自動車メーカーでも食品メーカーでも、小売業や外食業でも、日本や世界にある企業はどこでも市場で競争しています。そこで働く従業員は、競争意識を持っているはずです。

 例えば自動車メーカーであれば、営業部門だけではなく、間接部門でも競争意識を持っているでしょう。情報システム部門に所属する社内“システム屋”が、会計システムの保守を担当しているとします。会計システムや保守のような兵たん・後方支援も競争を勝ち抜くうえで重要です。自分は「どうすれば自社の競争力強化に貢献できるか」と考え、自律的に動いていれば、この“システム屋”は競争意識を持っていて、競争していると言えます。

 あるいはITベンダーで外食チェーン向けの売上管理システムを担当している“システム屋”の場合は、他のITベンダーに負けない品質や費用対効果を提供しようとしていれば競争意識を持っていると言えます。外食チェーン自身の競争力強化支援を、ITを使ってどう実現するかまで考え抜いて、より良いシステムを作れるように努力しているなら、“システム屋”としての将来が期待できます。

 一方で、与えられた課題を与えられた時間・コスト・体制でミスなくやり遂げることだけに腐心しているようであれば、その“システム屋”が競争しているとは言えません。サッカーで言えば、「ここにボールが来たらこうせよ」という指示を忠実に守るだけのレベルです。ここに留まっていては、個人としてもチームとしても成長できるはずがありません。