ここ1~2年、企業のコミュニケーションプラットフォームとしてソーシャルメディアの存在がクローズアップされてきたことは、いまさら言うまでもない。TwitterやFacebookをはじめ、企業はそのマーケティング コミュニケーション活動において、積極的にソーシャルメディアを利活用するようになってきた。

 もちろん、その背景としてソーシャルメディアのユーザー数が増加したというのは、非常に大きい。その一方で、ソーシャルメディアを利用するユーザー数が増加するに伴い、企業の抱える悩みが大きくなってきたことも否定できないだろう。特に、この傾向は今年になって顕著に現れてきたように思える。

ソーシャルの活用が増えるにつれ「炎上」の危険も

 例えば、ソーシャルメディア上において、いわゆる「炎上」と呼ばれる騒ぎに企業が巻き込まれるケースが目立つ。実際、日本国内の企業に関するものだけをざっとピックアップしてみても、現時点ですでに昨年発生した「炎上」の件数を上回っているはずだ。

 昨今起こっている「炎上」事例には、ある種の共通点が見いだせる。企業がソーシャルメディアを自社のコミュニケーション活動に用い始めたころの「炎上」といえば、その多くは「自分たちが設けたソーシャルメディア上の窓口で起こしてしまった不手際」に端を発するものだった。

 だが、最近の「炎上」を考えると、むしろこういったケースは少ない。増加している「炎上」の発端、いわば「発火点」となるのは、自分たちで設けた窓口ではなく、それ以外の場所に変わってきているのが特徴と言えるだろう。

 たとえば、それは従業員の一個人のTwitterアカウントやmixiの日記上における発言かもしれない。“有名人が来店した際に従業員が軽い気持ちで書き込んだツイートがきっかけとなった「炎上」” と言われて思い出される事例も一つや二つではないだろう。もちろん顧客によって書かれた、対応における不手際や、製品の不良によるものをものもあるかもしれない。

 いずれにせよ、自分たちが設け、自分たちで管理をしているソーシャルメディア上の窓口以外の場所が発火点となり、それがソーシャルメディア上で大きく増幅されてから企業に降り掛かってくるというケースが増加している。

メリットとリスクのバランスをとることが重要

 こうした騒ぎを見て、“ソーシャルメディアは気になる存在だが「炎上」リスクが懸念される” と考えている企業は少なくない。そのリスクを回避するために、“ソーシャルメディア上でのコミュニケーションを行わない” と判断することが、これまで多く見られていた。だが、もはやそれだけではリスクを回避することはできない状況になってきている。

 企業活動において、ソーシャルメディア上でのリスク要因は、確かに数年前と比して格段に増加している。では企業は、このような流れに、どのようにして対応していく必要があるのだろうか。本連載は、「SNS と企業の一歩進んだ使い方講座」と題して、激しく移り変わるソーシャルメディアの世界において、そのリスク管理や運用方法、そして理想とされる体制づくりからコーポレート・ガバナンスまでを含めて考えていこう。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
バーソン・マーステラ リード デジタル ストラテジスト
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。早稲田大学卒業後、プロミュージシャンを経てIT業界へ。リアルネットワークス、コールマン・ジャパンなどを経て、マイクロソフト(当時)に入社。2009年より同社の「ソーシャルメディアリード」として、ソーシャルメディアマーケティング戦略を確立させたのち、2011年2月よりバーソン・マーステラに入社し、リードデジタルストラテジストを務める。