帝人の西川修取締役専務執行役員CSRO(グループCSR責任者)兼CIO(グループ情報責任者) (写真撮影:北山 宏一)
帝人の西川修取締役専務執行役員CSRO(グループCSR責任者)兼CIO(グループ情報責任者) (写真撮影:北山 宏一)
[画像のクリックで拡大表示]

 「大地震への備えはあったが、原発事故は想定外だった」

 帝人のCIO(グループ情報責任者)である西川修取締役専務執行役員はこう話す。帝人の東日本大震災直後の初動はスムーズだった。幸い東京本社や主要工場は被災を免れ、西日本のデータセンターに設置していた基幹情報システムや安否確認システムの稼働にも影響は無かった。

 一方で、影響が大きかったのが西川氏の出身母体でもある医薬医療事業(帝人ファーマ)だった。西川氏はCIOに就任する前、医薬医療事業を担当していた時に、呼吸器系疾患患者向けの在宅酸素療法(HOT)機器をネットワークで結び、24時間オンラインで監視する仕組みを整えた。機器や患者に異常が発生したら、すぐに担当医師などに通知される。ITを活用した在宅医療サービスは差異化要因になり、帝人ファーマは約6割の国内シェアを握っている。

 電気や通信インフラが遮断された東日本大震災後は、一部地域でこのHOT機器を使ったサービスが止まってしまった。帝人ファーマが策定していたBCP(事業継続計画)にのっとって、在宅医療を受けている患者に酸素ボンベを宅配することにしていた。

 しかし宮城県や福島県の営業拠点は津波と揺れで大きな被害を受け、業務継続が不可能になった。西川氏は即座にホテルなど臨時拠点への業務移管を指示。帝人ファーマの営業支援システムはウェブシステム化を完了しており、パソコンさえ手配すればすぐに業務を再開できる環境ができていたことが奏功した。普段は個人情報保護のために拠点外でのシステムへの接続を禁止しているが、今回は特例を認めた。

 そしてシステムで患者の住所を特定し、被災地や計画停電地域に住む患者約2万5000人に、予備用の酸素ボンベを届ける業務に取りかかった。システムを活用できたのは患者の所在特定までで、実際に届けるところは、全国からの応援要員約1000人を集める人海戦術で乗り切った。

自社工場からガイガーカウンターをかき集める

 西川氏の頭を悩ませたのが原子力発電所の事故だったという。放射性物質による影響が懸念された地域にも患者は住んでいる。停電など混乱が長引いた場合でも患者の健康を維持するためには必ず酸素ボンベを届ける必要があるが、一方で、自社の社員を放射線の危険にさらすわけにもいかない。

 結論としては、社員にガイガーカウンター(放射線測定器)を持たせたうえで患者宅に派遣することを決めた。ガイガーカウンターは帝人の工場で業務用に使っているものをかき集めて、社員に配布した。

 西川氏がCIOに就任したのは2010年4月。薬学部出身で医薬医療畑を歩んできたため、IT(情報技術)部門の経験は皆無だった。しかし医薬医療事業で在宅医療ネットワークを企画した経験が、CIOとして遭遇した東日本大震災時の危機対応に生きたようだ。

 西川氏は今後は繊維や樹脂など医薬医療以外の事業でもIT活用を徹底させる考えだ。「事業横断でのビジネス変革と情報活用を推進するため、IT部門が具体的な課題設定と行動計画策定を実行したい」と意気込む。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・過去にCIOを務めた大八木成男CEOとは、医薬医療事業でも仕事を共にしており、今でも頻繁にやり取りがあります。経営会議において取り上げられる事業戦略上の様々な課題を、私が管掌するIT機能組織として解決・支援できないかについて、定期的に話し合っています

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと
・帝人はITベンダー機能を持つグループ企業(インフォコム)を保有しており、まずはインフォコムの企業体質強化が重要だと考えています
・帝人グループの業容拡大と共に、グループの様々な事業の業務を深く知るIT要員がインフォコムにも少なくなっており、IT企画機能の低下要因になっていると感じます。グループ内の様々な業務をローテーションさせるなどして、IT企画機能の強化を図りたいと思います

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞
・日経ビジネス、週刊ダイヤモンド、プレジデント

◆最近読んだお薦めの本
・『本社も経理も中国へ 交通費伝票は中国で精算する』(海野惠一著、ダイヤモンド社)

◆仕事に役立つお薦めのインターネットサイト
日本経済新聞電子版

◆ストレス解消法
・愛犬と散歩