ソーシャルネットワークとスマートフォンの活用で、企業のシステム構築が大きく変わっている。その具体的な事例として、中堅旅行代理店のトップツアーが取り組んだ例を紹介しよう。ソーシャルやスマートフォンの併用で、営業に充てる時間を4割増やし、商品の提案から契約までを担当者レベルで完結できる「動く店舗」を目指した。

図1●トップツアーの営業収益(売上高)伸び率
図1●トップツアーの営業収益(売上高)伸び率
売上高は横ばいかマイナス成長が続く
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 トップツアーの2010年12月期における営業収益(売上高)は前年度比6.1%減の155億3000万円(図1)。2003年以降、売上高の伸び率は横ばいかマイナス成長にとどまっている。最近ではリーマン・ショック以降、旅行業界全体が厳しい状況のなかで、同社もその影響をもろに受けた。

 同社のビジネスは、企業や学校、官公庁といった法人向けが売上高の7割を占める。1件当たりの契約規模が個人向けよりも大きいので、景気変動の影響を余計に受けやすい。

 一方で、2010年12月期の営業利益は前年度比46.9%増、経常利益は同41.3%増を達成した。決算報告書ではその理由を「営業担当者の業務効率化を推進した結果、人件費を含めた営業経費が大幅に下回った」と説明する。

 営業力強化に向け、2010年1月から3年がかりで進めている取り組みの成果が表れた。脇坂克也 旅行営業本部営業企画部部長は「コスト削減だけでなく、今後の売り上げ増につなげる」と話す。

2012年まで3段階で実現

 クラウドサービスやスマートフォンを駆使して、営業力を強化する。同時に、営業にかかわるコストを削減する。脇坂部長ら改革推進チームは、こうした内容の取り組みを進めている(図2)。

図2●トップツアーにおける営業力強化プロジェクトの概要
図2●トップツアーにおける営業力強化プロジェクトの概要
法人向けの売上高比率が全体の7割を占める同社にとって、営業担当者の生産性向上は急務だった
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 第1段階である昨年は、全従業員1800人でグーグルの企業向けアプリケーション群「Google Apps(以下、Apps)」の利用を開始。さらに営業担当者1000人にAndroidを搭載したスマートフォンを配布し、「商機を逃さないよう、顧客に近いところで必要な情報を取り出したり決断したりできるようにする」(脇坂部長)ためのITインフラを整えた。

 第2段階の今年は、営業効率をより高めるためにワークフローシステムを整備し、紙の伝票を削減する。仕上げの年となる2012年には、整備したITインフラやワークフローシステムを基に、業務プロセスの見直しや効果測定に取り組む計画だ。

 一連の取り組みの狙いは、「営業担当者一人ひとりを『動く店舗』にする」(脇坂部長)ことにある。商品の提案から契約までの営業にかかわる作業や、精算や報告書作成などの社内業務を、オフィスに持ち帰らなくても担当者がそれぞれ実行できるようにする。

 顧客との商談の席で、提案書や旅行商品の資料をすぐに取り出し、その場で見積もりを提示する。担当者が気付いたことを出先からすぐに入力し、全員で共有する。経費精算やメールの確認、報告書の作成を外出先で実行する―。クラウドとスマートフォンの組み合わせで、こうした「動く店舗」を実現できると同社はみている。