世の中では、いろいろな分野で「3.0」が提唱されている。モチベーション3.0やマーケティング3.0は、その中でよく知られた存在だ。これらの3.0は発展の段階のことだが、私が言うビジネスモデル3.0の意味は少し異なる。「ビジネスモデルには3種類ある」と理解していただければよいだろう。

 その背景には、工業社会から知識社会への移行という経営環境の変化がある。知識社会はドラッカーが提唱した概念で、「知識」が生産の手段になった社会である。これに対し、工業社会は製品やサービスを生み出すための「労働力」が手段になる社会だ。知識社会における経営環境は、工業社会のものから大きく様変わりする。

課題解決価値を実現する ビジネスモデル3.0

シグマクシス パートナー 渡邊 達雄 氏
シグマクシス
パートナー
渡邊 達雄 氏

 ビジネスモデル3.0(BM3.0)は、この知識社会に適したビジネスモデルである。工業社会におけるビジネスは製品や付加価値を提供する「プロダクトビジネス」であり、ビジネスモデル1.0(BM1.0)とビジネスモデル2.0(BM2.0)を原理として展開される。

 BM1.0は製品そのものの価値を競争力の源泉とするモデルで、製品価値をマスマーケットに訴求することでビジネスを拡大していく。また、BM2.0は付加価値モデルであり、製品にプラスされたサービスや機能を付加価値として顧客に提供する。製品にどのような価値を付加するかは提供者によって異なるから、そこが差別化の要素となる。

 これに対し、知識社会でのビジネスは課題解決価値を提供するソリューションビジネスとなる。そのためのビジネスモデルであるBM3.0では、値付けの考え方も「製造原価+利益」から「顧客が手にする価値」に変化する。収益モデルが変わるのだから、営業プロセスや組織もそれに合わせたものにしなければならない。

ビジネスモデルの違い
ビジネスモデルの違い
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 BM1.0とBM2.0の営業プロセスでは、製品やサービスに詳しい開発担当者や企画担当者といった自社の担当者が営業担当者に製品情報を提供し、営業担当者はその情報をもとに製品を顧客に売り込むという一方向の流れである。鍵を握るのは製品やサービスそのものの競争力である。マーケティングの目標は市場シェアに、営業の目標はセールスカバレッジに置く。

 しばしば誤解されているが、いわゆるソリューション販売はソリューションビジネスではない。ソリューションと称していても、実際には製品やサービスにそのベンダーの付加価値を乗せて販売しているにすぎないからだ。

 これに対し、BM3.0の営業プロセスは双方向あるいは繰り返し型になる。解決すべき課題は顧客側に存在し、提供者側には「このような課題があるのではないか」という仮説しかないからだ。営業担当者はその仮説を顧客に提示し、対話などを通して顧客の真の課題を探り出し、自社に持ち帰る。そして、自社内の担当者はその課題に対する解決策を考え、営業担当者を通して顧客に提案する。このやり取りが何回か繰り返さなければ、本当の課題解決策の提供は難しいだろう。

 BM3.0でカギを握るのは、課題の把握力と解決力だ。そしてリレーションを深めていくことで、長期的に経営課題を共有してくれる顧客をつかむことが営業の目標になる。

 では、このような営業改革を進めるうえで必要な取り組みは何か。

BM3.0は避けて通れない道 人事と営業の改革が急務に

 まずは営業プロセスを実際に進めるうえで欠かせないのが提案活動の質と量を可視化するためのパイプラインマネジメントだ。これは、Identified(顧客が自社に関心を示している)→Validated(顧客がニーズを話してくれる)→Qualified(採用検討を進めることについて意思決定者が同意)→Proposed(提案)→Contracted(契約)と進むIVQPCサイクルに従って、案件や担当者を管理する手法のこと。ステータスごとの案件数を月別にグラフで可視化することにより、進捗状況や目標達成見込みは一目瞭然だ。アクションが必要な時には、組織として先手を打つこともできる。

 そしてワークスタイル改革が必要だ。具体的には、プロジェクト単位の仕事の進め方(プロジェクトワーク)を採用し、ナレッジマネジメント(知識管理)やデジタルモバイルワークプレースを導入することだ。人的資産を可視化するためのプロフェッショナル人材管理(プロフェッショナルHCM)システムの導入も欠かせない。

 このプロフェッショナルHCMの狙いは、社員1人ひとりのスキルや能力を正しく把握し、自社がどのようなことをどういうチームで行えるかを明らかにすることにある。能力を把握する際には、共通の指標や尺度(メジャー)を設定し、職位などにとらわれない真の能力を測定・評価してレベル分けすべきだろう。

 営業担当者には、顧客とのリレーションの確立と、その業界での顧客のポジショニングの理解が求められる。リレーションが出来上がっていなければこちらの仮説に耳を傾けてもらえないし、顧客の置かれている状況が分からなければ適切な仮説を構築できない。

 工業社会から知識社会への移行は必至で、企業はソリューション化とBM3.0を避けて通れない。問題は、プロダクトビジネス向けのBM2.0やBM1.0のままでソリューションビジネスに乗り出す企業が多いことだ。「在来線に新幹線は走らない」のだから、BM3.0に適した組織、プロセス、システム、人事に早期に切り替えるべきだ。