新日鉄ソリューションズ 常務取締役 ITインフラソリューション事業本部長 宮辺 裕 氏
新日鉄ソリューションズ
常務取締役
ITインフラソリューション事業本部長
宮辺 裕 氏

 新日本製鉄の情報システム部門を母体とする当社は、ミッションクリティカル性が高いシステムの企画・設計・構築・運用に長年携わってきた。その当社がクラウドビジネスを始めたのはおよそ5年前のことだ。現在、IaaSの「absonne」やPaaSの「NSAppBASE for EC」といったクラウドサービスを展開している。

 このうちabsonneは限られた数のお客様に管理されたクラウドを提供するサービス。サービスの品質を保つとともに、それぞれのお客様のニーズにきめ細かく対応している。現在、都内に第5データセンターを建設中で、完成した暁には品質を一段と高め、管理やサポートも強化したabsonne 2.0に移行する。

 この取り組みを通し、当社は「クラウドの進化は企業のワークスタイルを変革する」という考えに至った。そのクラウドの進化には、サービス化とプラットフォーム化の2つの方向性がある。

 サービス化とは、必要なときに必要なだけシステムが使えるようになるオンデマンド化に加え、地理的制約が排除されること、つまりリモート化である。これを加速する要因となるのがiPhoneやiPad、Android端末などのモバイル端末だ。「サービスとして利用」と「どこからでも利用できる」の2つの特性が相乗効果を生み、互いに相手の進化を加速していく。

 プラットフォームとしてのクラウドは、ITの基盤を共通化することによって、標準化と共通化、水平統合化、垂直統合化などの成果を企業にもたらす。DaaS、SaaS、PaaS、IaaSのいずれの階層でクラウドを導入するかによって標準化の程度は異なるが、標準化によってサービスの導入が容易になり、それによって標準化が進むという共生的進化がここにもある。水平統合と垂直統合のどちらでプラットフォーム化するかはKPI(重要業績指標)で判断すればよい。

ワークスタイルが変わると意思決定の効率と質が向上

 こうした進化の延長線上に当社が提言する「クラウドプラス」がある。これまでクラウドの目的には、プラットフォームの標準化による総所有コスト(TCO)の削減、ITリソースの柔軟な割り当てによるシステムの柔軟・迅速な構築があった。この次のステージにあるのがクラウドプラスである。

クラウドサービス活用の方向性
クラウドサービス活用の方向性
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 最大の特徴は、ライフスタイルとワークスタイルの変貌によって情報や知識を統合するようになり、意思決定の生産性と質が向上することにある。

 ライフスタイルに変貌をもたらすのは、モバイル端末とクラウドサービスの間の共生的進化だ。Twitter、Facebookなどのクラウドサービス、HadoopやKey Value Storeを活用したクラウド上のプラットフォームに接続できるようになる結果、リアルタイムでの情報の発信・共有が可能になる。

 インターネットが爆発的に普及したのは、パートナーとなったPCの存在が大きい。同様にクラウドは、モバイル端末とパートナーとなることで、利用の幅が一気に広がり、急速に普及する。これらを利用することで、ワークスタイルを変貌させることができる。

 クラウドプラスは、実際にはクラウドサービスに別のコアテクノロジーをプラスした形態となる。組み合わせに特に決まりはないので、モバイル、AR(拡張現実)、AI(人口知能)など様々なテクノロジーを載せることで、原理的にはあらゆる分野に適用できる。

 また、クラウドプラスは実世界(の事実)、コンピュータ(上のモデル)、人間(の持つ知識・経験)の3者を統合的に扱うためのアーキテクチャーとしても働く。各種センサーで実世界のデータをクラウドに集めたうえで、コンピュータを使って分析、可視化し、その結果に基づいて人間が経験や知識に裏打ちされた専門的判断をするということが想定できる。3者がそれぞれの得意分野を分担することで、意思決定の生産性と質が向上し、新しいサービスが次々と創造される。

人間の知的作業を支援する情報系システムの完成

 このような可能性があるクラウドプラスは、企業では知的作業を支援する情報系システムとしての役割を果たす。

 これまで基幹系システムは、ルーチンワークを自動化し、ビジネスプロセスの実行制御を担当してきた。それに対し、情報系システムは可視化、分析、関連付け、ルール抽出、シミュレーションといった機能の提供により、意思決定などの知的作業を支援していく。

 そうしたクラウドプラスを実現するために、大規模データの取り扱い、高度分散並列処理、低レイテンシーでの高トランザクション処理などの技術が欠かせない。これらをすべて盛り込んだ“完成形”として、当社は「Platform-based Information Management」の構築を進めている。

 クラウドの進化とプラットフォーム化に歩調を合わせ、サイロ型だったシステムは標準化され、アプリケーション開発に要する期間と工数は減っていく。当社の事業モデルは多少複雑になるが、お客様のシステムがシンプルになるだけでなく、ワークスタイルも変革できるはずだ。

 企画・設計・構築・運用のライフサイクル全般にわたってクラウドを含むサービスの提供により、お客様の企業価値の向上に役立つことが当社の使命だ。