ブランク氏は、自らの経験と教え子とのやりとりから、スタートアップ企業の「戦略」と「やるべきこと」が混同されがちなことを発見した。両者は同一ではなく、戦略を立案することで、実行すべきことやいつ実行すべきかか、明確になるという関係にある。他者の助言を聞いてただ実行する行為は、マーケティングとは呼べない。(ITpro)

 とても面白いスタートアップ企業を始めた、シンガポール出身の教え子2人と朝食をとった時のことです。彼らは「顧客開発」モデルにおける「顧客の発見」段階に入っており、創業当初の仮説を実証する目標顧客や価格付け、顧客の定着度などに関する膨大なデータを説明してくれました。

 次に彼らが言い出したのは、私が全く予想していなかったことでした。それは、「3週間後に、商品の販売を始めます」という内容です。私はコーヒーをこぼしそうになりました。「なんだって。“顧客開発”の残りのステップはどうするつもりなんだ。自分達の仮説を、実際の顧客で実証するんじゃなかったのかな」。

 彼らは何の迷いも無く「ええ、投資家たちがそのステップを省くよう言うので、我々も納得しました。顧客からの反応はまちまちなので、すべてを聞いていたらきりがありません。もともと3週間後に販売を始めるスケジュールを組んでいたので、投資家たちは現金がなくなることを心配しています。だから、投資家たちはスケジュール通りに進めようと指示したのです」。

 私は理解に苦しみ、「君たち自身はどう考えているんだ。顧客開発モデルの継続と、スケジュールを優先させるのと、どちらが良いと思っているんだろう」と聞きました。彼らは「ええと、私たちは、両方とも正しいと思います」と躊躇なく答えました。

 私はこのやりとりをしている間に、彼らが「顧客開発」モデルを、やるべきことリストの1項目とみなしていることに気付きました。自分も同じ経験があったことをすぐに思い出したからです。

「新戦略をどう思う?」

 当時私は、スーパーコンピューターを開発していたアーデントのマーケティング担当副社長でした。この企業の「顧客の発見」段階で、非常に辛く、生涯忘れられないことを学びました。私は、若くて賢く、積極的で非常に駆け引きの上手なマーケティングの専門家を自負していましたが、マーケティング戦略とはどのようなものか、全く理解していなかったのです。

 同社に勤めていたある日、CEOが部屋に来るように私を呼び、彼の部屋を訪れると「スティーブ、私はこれを今後の戦略にしようと考えている。どう思う?」と言って、かなり複雑ではあるものの、革新的な販売とマーケティング戦略の18カ月プランを説明しました。「はい、非常に素晴らしいと思います」と私は答えました。

 彼はうなずき、「では、この別の戦略はどう思う?」と提案しました。前のものと同じように複雑な、別の戦略を説明しました。そして「君はこの両方をやれますか?」と私を見つめながら聞きました。彼が天使のような笑顔を見せながら私を罠に落とそうとしていることに気付くべきでしたが、「はい、すぐにとりかかります」と愚かにも答えてしまいました。

 あれから25年経った今でも、その次に起こったことを覚えています。部屋の空気が一変し、CEOは叫び出しました。「馬鹿野郎、この二つの戦略は、相反するものだ。この二つの戦略を実行するなら、会社は倒産する。君はマーケティングがどのようなものか全く分かっていない。君は、やるべきことリストの項目を一つ一つやっているように、作業を順番にこなしているだけだ。どうしてそれをやるのか、その理由が分からなかったら、マーケティング担当副社長として失格だ。君はマーケティング・コミュニケーションのお飾りにすぎない」と叱責されました。