家庭用ヘルスメーターを当社が発売したのは1959年のことだ。その後、体脂肪計や体組成計なども手掛けるようになった。その当社のITとの関わりの1つが会員制健康管理サービス「からだカルテ」だ。体組成計や血圧計、歩数計などには計測データを送信できるものがある。インターネットを経由し、そのデータは当社が運営するデータベースに取り込まれ、会員の健康情報として時系列でグラフ化され、会員は携帯電話やPCからいつでも見られる。

社員食堂の健康レシピを紹介 書籍化し225万部の大ヒット

タニタ 代表取締役社長 谷田 千里 氏
タニタ
代表取締役社長
谷田 千里 氏

 からだカルテでは、様々な健康関連情報も得られる。その1つ「モバイルタニタ食堂」は、当社の社員食堂のメニューをまとめた料理本「体脂肪計タニタの社員食堂 500kcalのまんぷく定食」のレシピを携帯電話で閲覧できるサイトだ。この料理本は、当社の社員食堂がテレビ番組に紹介されているのを見た出版社からの提案で書籍化した。シリーズ累計の部数は8月9日時点で225万部を超える。

 人気を博した理由は、特別なことをせずに体重を自然と落とせる点にある。外食など普通に食事をすると、1食あたりのカロリーが800~900kcalに達するが、本の副題のように当社の社員食堂なら平均500kcal。1食あたり300~400kcal低く、1カ月では6600kcalを減らせる。実は、脂肪を1キロ落とすには約7200kcalの消費が必要で、ランニングなら12時間の走行、食事ならご飯45杯分に匹敵する。

 この料理本をきっかけに様々な業種・業界とのコラボレーションが生まれ、事業の幅が広がった。ローソンと健康志向のお弁当やお惣菜を、森永乳業とはカロリーを抑えたプリンを、理研ビタミンとはレシピ本をベースに同社の商品を使った新しいメニューをそれぞれ共同で開発した。また、カゴメとは昨年末から年始にかけて、忘年会や新年会で生活習慣が乱れがちになるため、健康レベルがチェックできる期間限定のWebサイトを開設した。

 ITとの関わりでは、2008年12月にWeb上の動画配信サービス「ニコニコ動画」で初の公式コミュニティーを開設した。私が社長に就任したのはこの年の5月。タニタのブランドは中高年層には認知されていたが、若年層の間ではあまり浸透していなかった。私自身がメッセージを伝えたほか、動画で商品を紹介すると大きな反響を得た。規模がそれほど大きくない企業でも、使い方しだいで営業やマーケティングなどで効果を得られることを実感した。

メタボ対策として実施したタニタ健康プロジェクト

 健康関連商品を扱う当社は福利厚生の一環として、社員の健康管理にも力を入れる。2009年1月から続けている「タニタ健康プロジェクト」はその1つだ。対象にしたのは本社に勤務する300人ほどの社員。プロジェクトのきっかけは、生活習慣病の予備軍であるメタボリックシンドロームの人を早期発見し、対策を講じることを目的として、2008年4月から始まった特定健康診査・特定保健指導である。

 当社のからだカルテを活用し、参加者全員に歩数計と、からだカルテのIDとパスワードを配り、3~4人に1台の割合で体組成計を用意した。毎日の歩数を記録し、週に1~2回の割合で体組成計で体重や体脂肪率などを計測する。

 結果をみると、参加者の多くが体重や体脂肪を減らすことができた。タニタ社員限定の歩数を競うイベントなどが功を奏し、2009年度と2010年度の参加率は高かった。しかし、課題もある。特定保健指導の対象となって個別指導プログラムを受けた社員の中には、体重や体脂肪率が元に戻っていたり、リバウンドで逆に増えていたりした人もいた。2011年度は、配布する機器を一新したうえでメタボゼロを達成するための新たな取り組みを始める。

ダイエットソリューションで摂取と消費のバランスをはかる

 ダイエットの成否の鍵を握るのは摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスだ。この2つをコントロールできれば、ダイエットは成功する。しかし、現実にはダイエットに失敗している人が多い。

 これまで当社は体重や体脂肪率などの体組成をできるだけ正確に計測する商品の提供に取り組んできたが、今後はダイエットを成功に導く「ダイエットソリューション」の提供に力を注ぐ方針だ。先の料理本の出版もその一環である。レシピ本を参考にすれば、エネルギーを摂取しすぎることはない。

 最近発売した「ダイエットスケールKP-105」は摂取エネルギーをコントロールするためのものだ。間食の摂りすぎでエネルギーを摂取しすぎダイエットに失敗する人は多い。ダイエットスケールは携帯電話とそん色ない大きさと重さ。どこにでも持ち運べ、あめ1個、チョコ1個の重さもはかれ、間食による摂取エネルギーを計測できる。

 また、開発中の「ダイエットチェッカーQM-300」も摂取エネルギーをコントロールするものだ。尿中の糖分を計測することで、食べ過ぎの判定ができる。今年正月の新聞で200人のモニターを募集したところ、ネットでの応募に限定したにもかかわらず1万人を超える応募があり、反響の大きさに驚いている。

 消費エネルギーをコントロールするソリューションも用意している。活動量計「カロリズム」がそれだ。これを身に着けて生活すると、すべての動きをもとに1日の総消費エネルギー量を算出し、それを液晶パネルに表示する。消費エネルギー量を高い精度で計測するには、これまでヒューマンカロリーメーターという大がかりな装置が必要だった。この装置の中に人間が入り、活動量を計測する。カロリズムはこれとほぼ同じ精度で計測できる。

 当社の基本理念は「我々は、『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献します」というものだ。病院で使われる医療機器を転用し、糖尿病の予防を狙った尿糖計ユーチェック「UG-201」のほか、寝たままで腹部の脂肪率・内臓脂肪レベル・腹囲を計測できる腹部脂肪計「AB-140」、睡眠の状態と眠りの深さやリズムをはかるスリープスキャン「SL-501」、業務用マルチ周波数体組成計「MC-980」といった医療や介護・福祉、教育現場で使われる商品もある。今後も独創的なアイディアで優れた商品とサービスを提供していきたい。