日本ヒューレット・パッカード 執行役員 HPソフトウェア事業統括 中川 いち朗 氏
日本ヒューレット・パッカード
執行役員
HPソフトウェア事業統括
中川 いち朗 氏

 ヒューレット・パッカード(HP)はここ数年、ITサービスやソフトウエアの会社の買収を続けている。その背景には、当社が今年3月に発表した新ビジョンEVERYBODY ONに基づいた事業戦略がある。新ビジョンは当社だけでなく、日本や世界のITを変革する指針になると確信している。

 EVERYBODY ONは、クラウドコンピューティングが普及した後のIT環境を見据えて策定されたビジョン。HPは、データと情報の作成・保管・提供・利用について、今まさに劇的な変化が進みつつあるとみている。その結果、世界中のあらゆる人が、どこからでも、様々なデバイスを使ってインターネットやITシステムに安全でシームレスに接続し、価値ある情報を双方でやり取りできるようになる。

 従来は1人の人間が企業内では貸与されたPCで業務をする一方、通勤途中や家庭では私有のノートPCでSNSなどに接続してきた。今、スマートフォンやタブレットPCのようなモバイル端末が急速に進化した結果、勤務先のメールサーバーに個人のスマートフォンからアクセスし、勤務先のPCから自分のSNSにコメントを書き込むように変わってきた。企業の利用形態をみても、業務データをクラウド型のサービスに保管したり、SNSをマーケティングに利用する動きも広まっている。

柔軟な構成のITスタックで非構造化データも取り扱う

 この変化の引き金は、情報を保管・提供するIT側と、そこに接続するデバイス側での技術革新にほかならない。

テクノロジーの革新
テクノロジーの革新
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 今後の新しいITでは従来の構造化データに加え、音声、画像、Facebookに代表されるSNSといった非構造化データをクラウド環境に対応した柔軟で差し替え可能なスタック(構成要素)で処理する。スタックは柔軟に差し替えられる仕組みなので、ハイブリッドインフラストラクチャー、プラットフォームサービス、クラウドサービス、オープンクラウドマーケットプレースなどの中から、その時々で必要なものを使用できる。もちろん、クラウドと企業内ITの混成となるハイブリッド構成にも対応する。問題は、従来のITから新しいITに何をどうやって移行していくか、どのように組み合わせれば全体最適化を図れるかという点だ。

3つのソリューションでハイブリッド移行を支援

 EVERYBODY ONでHPが想定するクラウド活用への道筋では、最初はプライベートとパブリッククラウドに移行し、最終的にはハイブリッドデリバリという形態に到達するという経路をたどる。つまり、プライベートとパブリッククラウドを利用する段階でプロジェクトやサービス単位の部分的な自動化を達成し、続くハイブリッドデリバリの段階で完全に自動化したセルフサービス環境が完成する。そうなると、CIOはITをビジネスに供給する仲介者としての役割を果たし、組織化・統合化され、セキュアに管理した環境でサービスを提供できるようになる。

 このハイブリッドデリバリを実現するための戦略として、HPは従来型ITの最適化、クラウド構築/管理用ソリューションの提供、ハイブリッドデリバリへの移行支援、企業も個人も安心して使える双方向で完全につながれた世界の定義と実現というアプローチを推進する。そして、このハイブリッドデリバリをベースとしたEVERYBODY ONの世界の実現に向けたソリューションがクラウド、ソフトウエア、コネクティビティの3つだ。

 クラウドソリューションでは、従来のITから新しいITへの移行を支援するとともに、最適化されたハイブリッド環境の構築と維持のお手伝いをする。クラウド計画・設計・導入支援コンサルティングサービス、エンタープライズクラウドサービス(ECS)、プライベート/パブリック/ハイブリッドのインフラであるCloudSystem、既存ITとクラウド環境が混在するヘテロな環境を自動化し最適化するCloud Service Automation(CSA)がそれに対応する。

 また、ソフトウエアソリューションでは運用管理、アプリケーション品質管理、情報管理、セキュリティ管理などの多様なソフトウエアをそろえる。先のCSAをはじめ、ログを監視分析するArcSight、アプリケーション内の脆弱性を自動検出するFortify、ビッグデータを超高速でリアルタイムに分析するVertica、経営者にKPIを示すことでITのビジネス貢献度を最大化できるIT Performance Suiteなどがその代表だ。

 さらに、コネクティビティソリューションによって様々なデバイスとの接続性を確保する。WebOSを搭載し企業・個人ユースの両立を図ったデバイスとして米国で今年7月にHP TouchPadを発売した。WebOSは、当社が買収したパームがスマートデバイス向けに開発したもので、今後、プリンター、PC、スマートフォン、タブレット端末といった多様なデバイスに搭載することで、EVERYBODY ONのビジョンをエンド・ツー・エンドで実現するために不可欠と判断し、買収した。

 HPは、今後、EVERYBODY ONのビジョンに基づいたITシステム、ソフトウエア、ハードウエアを提供していく覚悟だ。