ミニストップ 代表取締役社長 阿部 信行 氏
ミニストップ
代表取締役社長
阿部 信行 氏

 東日本大震災は未曽有の被害を与えた。震災当日、私は千葉市の海浜幕張にある本社ビルの18階にいた。大きな揺れを感じるとともに、海浜幕張地域で発生した液状化現象を目の当たりにして大変な事態であると直感した。

 震災後、現地との連絡に15分、従業員の安否確認に11時間を要した。安否確認システムは導入し、日頃から訓練していたが、パニックに陥ると支障を来たす結果となってしまった。

 反省すべき点はほかにもある。店舗の状況確認に68時間、フランチャイズビジネスにとって大事な加盟店の安否確認に115時間、およそ5日間を要している。避難所に身を寄せる店舗のオーナーもおり、連絡網のような手段があれば、もっと早く確認できたのではないか。

被災地の状況を映像で把握 テレビ会議システムを活用

 震災への対応で役立ったのがテレビ会議システムである。当社は3年前に導入して以来、毎週、全国13カ所の主要拠点を結び、500人規模の会議を開催してきた。また、拠点間のミーティングにも利用されるなど、テレビ会議システムは当たり前のコミュニケーションツールになっていた。

 テレビ会議システムが震災時に役立った理由の1つは、電話やメールでは伝わりにくい現地の状況を映像で確認できたことである。また、全社で同時に情報を共有できた点も評価できる。被災した東北や関東など東日本と、西日本では温度差があるが、西日本の社員もテレビ会議システムの映像を通して東北で何が起こっているのか、店舗はどんな状況なのか共有することができた。震災という非常時に使いこなせたのは日頃から業務で活用していたからだ。

 また、携帯電話のメール機能も役立った。あらかじめ登録したメンバーにメールを送信できる機能で、安否確認や被災地の状況把握などに使った。営業部門では日頃から担当地域や本部との情報共有に活用していたことが功を奏した。

 このほか、個人レベルではあるが、FacebookやTwitterなどのSNSを活用する社員もいた。SNSはリアルタイムに情報を共有できる。今後、全社共通のコミュニケーションツールの1つとして、SNSの利用も検討課題になるだろう。

普段から機器操作の訓練を 非常時には宝の持ち腐れに

 ICTの活用では反省点もある。停電になると店舗のPOSレジが使えなくなるので、停電時にも店舗を営業できるよう商品の検収時に使用するハンディターミナルに簡易レジ機能を備えたタイプを導入していた。しかし、簡易レジ機能を操作するための講習会を開催していなかった。操作マニュアルはあっても、普段から訓練していないと非常時に使えないことを改めて思い知らされた。

 ICT機器は高機能化とともに操作が複雑化する傾向がある。いくら優れた機能を備えていても、使い慣れていなければ有事の際に役に立たない。コンビニエンスストアの店舗では様々な年代の人が仕事をしているので、ICTベンダーは誰でも簡単に操作できるシンプルな機器を開発・提供してほしい。

 店舗の営業再開に欠かせないのがPOSレジやストアコントローラなど店舗システムである。店舗システムの被害状況は、短時間(24時間以内)システムダウンが158店、長時間(24時間以上)が242店だった。震災による被害状況はまちまちで、機器が津波で流されたり、停電で長時間の停止を余儀なくされたり、通信インフラが停止したりと様々な状況が発生した。

 店舗システムの復旧は、通常、メーカーの保守担当者が店舗を訪れ、システムを再起動する。だが、被災地では道路の寸断やガソリン不足などでいつ店舗を訪問できるか分からない状況だった。そこで、店舗システムのメーカーに協力してもらい、通信回線を経由した遠隔操作でシステムを復旧した。これにより、短時間に多くの店舗システムを再起動できた。また、有事を想定して通信インフラを冗長化していたこと、店舗システムにリモートアクセス用のアプリケーションを組み込んでいたことも幸いした。全店営業再開までに1171時間と比較的早期に開店でき、利用者から感謝された。

 もっとも、遠隔操作でシステム復旧のオペレーションができる人員が不足していた点については反省しなければならない。今後、通常の保守サービスも遠隔操作で行うなど、作業の見直しが必要になるだろう。

 津波によって通信インフラが遮断された店舗もある。宮城県内のある店舗ではNTT東日本の局舎が被害を受け、有線の通信インフラの早期復旧が見込めない状況だった。その解決策として、携帯電話の高速データ通信サービスを活用し、店舗システムと接続して商品の発注や会計処理などができた。

 首都圏や東海などでも大規模地震の発生が予測されている。大震災を未然に防げない以上、日頃から訓練を重ね、早期に復旧できる体制を整えることが大切だ。

トップの決断を左右する現場の正確で迅速な状況報告

 今、振り返ると、店舗の早期営業再開が可能になった大きな要因の1つに、現場の正しい情報の入手がある。震災後、直ちに社長の私を本部長とする災害対策本部を立ち上げ、現場の情報に基づいてトップダウンで決断していった。店舗や営業担当者からの正確な状況報告がなければ、それは不可能だった。

 だが、すべてトップが決断すると、社員が指示待ちの状況になる恐れもある。こうした事態を防ぐため、物流や店舗復旧など課題ごとにプロジェクトを立ち上げ、権限を徐々にプロジェクトリーダーに委譲した。

 そして、何よりも大きかったのは人の思いだ。コンビニが地域の生活インフラとして重要な存在であり、一刻も早く店舗の営業を再開するという思いを本部や店舗で働く1人ひとりが共有できたからこそ早期復旧できたように思う。

 事業継続に大切なものは何かと問われれば、私は次の3つを挙げたい。1つ目は判断を下す人間に正しい情報が迅速に伝わること。2つ目は、最初はトップダウンでも、権限を徐々に委譲し自立的に動く環境をつくること。3つ目は加盟店やステークホルダーの心を1つにする絆。今後もこの3つを念頭に置き事業を続けたい。