米国のスマートフォンユーザーは2011年7月時点で8220万人(13歳以上、comScore調べ)。ここシリコンバレーでも、スマートフォンを使っている人を見かけることはもはや当たり前となっている。

 米国における携帯電話のスマートフォン化が通信キャリアに与えるインパクトは、日本とは少し違う。米国の通信キャリアはこれまで、日本のiモードのようなキャリア主導のアプリケーション基盤を持つことはなかった。もっぱら通信ネットワークの提供に終始し、それでユーザーニーズに応えられてきたからである。

 しかし、スマートフォンが普及するや、ユーザーニーズが劇的に変わった。ユーザーはネットワークではなく、それを用いたアプリケーションの利用に価値を感じるようになったのである。またそのようなアプリケーションセントリックな時代に合わせて、通信キャリアが追求するものも、単なるARPU(1契約当たりの平均収入)の向上だけではなく、ネットワークを用いてユーザーが価値を感じる「体験」をいかに提供するかに様変わりしてきている。

トラフィックが3年で80倍に

 AT&Tモビリティ(以下、AT&T)は、2011年6月にサンタクララで開催されたカンファレンス「CONNECTIONS」における講演の中で「2010年のモバイルトラフィックは、2007年と比べて80倍になった」としている。ユーザーのアプリケーション利用が増加しているためであり、それは通信キャリアから離れたモバイルアプリケーションの世界のイノベーションによりもたらされたのである。

 そのような状況で、米国の通信キャリアもネットワークに閉じたサービスモデルに終始していたのでは、ユーザーの価値体験提供には手が届かない。スマートフォンのハードウエアからOS、アプリケーションまで提供するAppleやGoogleに通信回線を提供するだけの「Dump Pipe(土管屋)」となってしまうことを避けるべく、アプリケーション領域にチャレンジしている。

 AT&Tの場合、6年ほど前からスマートフォンのアプリ開発を支援するためのDeveloper Programを立ち上げている。スマートフォンが世界で大ブレイクするより前から、このアプリケーション層に着目はしていたわけだ。このDeveloper Programは、AT&Tが構築し提供する開発環境でアプリケーションをオープンに開発させ、さらにその開発したアプリケーションを、AppleやGoogleといったくくりではなく、AT&Tの通信ネットワークを利用したスマートフォン上で動かせるようにすることで、ネットワークからアプリケーションまでのトータルなユーザー体験を提供することを狙いとしている。