NEC代表取締役 執行役員副社長 兼 CMO(チーフマーケティングオフィサー) 岩波 利光 氏
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代表取締役 執行役員副社長 兼 CMO(チーフマーケティングオフィサー)
岩波 利光 氏

 コンピュータとコミュニケーションを融合する「C&C」をNECが提唱したのは1977年のことだ。それから40年後の2017年に向け、当社は「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」をビジョンに掲げ、事業を展開している。人にやさしいとは、いつでもどこでも、誰でも使えるサービスを通し、安心・安全・便利で豊かな生活を実現すること。地球にやさしいとは、限りある資源を効率的に活用し、地球環境と共存しながら持続的に発展していくことだ。こうした社会をC&Cクラウドで実現することを当社は目指している。

 クラウドの実現には3つの要素が欠かせない。1つ目はネット上の様々なデータを収集し、多様なサービスを活用するための端末やセンサー。2つ目はデータを伝送するネットワークや処理を実行するITプラットフォーム、3つ目は企業や家庭、自治体に必要なアプリケーションなどを提供するクラウドサービスだ。C&Cクラウドではこれら3要素を一括して提供する。

 C&Cクラウドは海外でも展開している。NECのスペイン法人が中心となり、ITとネットワーク技術を駆使したクラウドサービス基盤を構築し、地元通信事業者のテレフォニカがその基盤上で顧客管理システムなど企業向けクラウドサービスを提供している。

 こうした中で、突然発生したのが東日本大震災だ。当社はグループ全体で30社、77拠点が被災し、東北地方の生産拠点で建屋・設備が損傷した。しかし、日頃からBCP(事業継続計画)を策定し、防災訓練を定期的に実施していたことなどが奏功し、震災からおよそ2週間後には全拠点で生産を再開できた。

予測、予防、バックアップが今後のICTインフラの条件に

 今回の大震災を通して、今後のICTインフラに求められるのは予測、予防、バックアップの3つだと強く再認識した。予測とは膨大なデータを収集・解析し、より正確な情報をスピーディーに伝達することだ。予防はクラウドやデータセンターなどを活用して、事業継続をより高めること。バックアップはライフラインやシステムの復旧、大切な情報の保護だ。在宅勤務もバックアップのための対策と考えていいだろう。これら3つの要素に環境対応・エコ性能を加えた4つの技術要素が今後のICTインフラに求められる条件と考えている。

これからのICTインフラに求められるもの
これからのICTインフラに求められるもの
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 NECはこれら4つの技術要素を様々な形で提供している。一例を挙げれば、予測の分野では膨大なデータを収集・解析するための各種センサーを開発・提供している。海底地震観測システムにも採用され、観測センサーで地震や地震発生前の微弱な地殻活動を検出し、防災・減災に役立っている。こうして得た情報は緊急地震速報でも使われている。

 宇宙から災害や地球環境を観測し、災害規模や状況を把握する陸域観測技術衛星「だいち」にも当社の技術は使われている。地表を観測するためのセンサーはNECが開発・製造・運用を担当したものだ。運用が終了した2011年5月までの5年間で全世界を観測した。

 交通安全にも役立つ。事故を未然に防止する通信システムがそれだ。クルマに搭載したセンサーとGPS(全地球測位システム)の位置情報を活用し、渋滞や障害物などの情報をドライバーに通知し、危険回避ができるようにもなる。

 次に予防のために必要なICTをみてみる。今回の東日本大震災は企業の事業継続にも大きなインパクトを与えた。電力不足によって、これまで別々に取り組んでいた事業継続対策とエネルギー対策を同時に進めなければならなくなった。そこで、災害に強いICTを構築するため、当社は「今できること」と「次のアクション」の2段階で取り組んでいくのがいいのではないかと考えている。

 例えば、今できることには、データ保護やシステム復旧に欠かせないバックアップ対策をはじめ、在宅勤務の推進に向けたシンクライアントやリモートアクセスの導入、不要な機器・照明の電源OFF、省エネ機器への置き換えによる節電対策などがある。そして、次のアクションとしてBCPの見直しや電力不足への抜本対策を講じる。具体的には、業務システムでは遠隔バックアップや仮想化によるインフラ統合、クラウドサービスの活用を検討し、オフィス業務ではモバイルワークやビデオ会議システムの活用、省エネ機器への入れ替えなどに着手する。

蓄電や医療情報システムなどで次世代の街づくりに貢献

 こうした取り組みに役立つものにネットワークのクラウド化がある。当社では、クラウドに最適なネットワーク製品として「プログラマブルフロー」を提供している。OpenFlowと呼ばれる次世代ネットワーク技術を用いてシンプルなネットワークを構成するとともに、仮想化技術で遠隔地にあるデータセンター同士を結び、様々なクラウドサービスを提供できるようになる。

 NECは被災地の復興に向けた数々の取り組みを通し、次世代の街づくりに貢献できないかと考えている。例えば、エネルギーを効率的に利用するエネルギーマネジメントシステムや蓄電システム、安心・安全な医療サービスが受けられる医療情報システム、安全に運転できるクルマ社会の実現、各種センサーによる地震・災害の検知や地球環境の観測といった多種多様なニーズに対し、当社が培ってきた技術が役立つと確信している。

 今後、社会インフラを含めたあらゆるサービスがネットワークを介してつながり、有機的に連携する。当社は、そうした「人と地球にやさしい情報社会」をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニーを目指していく。