ITベンダーが同じだからといって、一様にユーザー企業から同じ評価を受けるわけではない。担当者が異なるだけで、ユーザーから見た印象が正反対といっていいほどに変わってしまったITベンダーの事例を紹介しよう。

 同じ地域、同じITベンダーであっても、ユーザーとの絆が強まるケースと弱まるケースがある。その分かりやすい例が、仙台市若林区に共に本社を構える、仙台中央青果卸売(略称:仙印)と医療用器具卸のシバタインテックにおけるITベンダーの震災対応だ。

 両社は沿岸から8kmほど離れているため、津波の被害は受けずに済んだ。しかし、地震の揺れは激しく、仙印のサーバールームでは床にひびが入り(写真)、シバタインテックではUPSの電源が抜けるほどサーバーラックが移動した。両社は偶然にも、同じITベンダーのシステムを導入している。にもかかわらず、ITベンダーへの評価が大きく分かれた。

写真●ひびが入った仙台中央青果卸売のサーバールーム<br>ITベンダーが復旧に向けて素早く動いた
写真●ひびが入った仙台中央青果卸売のサーバールーム
ITベンダーが復旧に向けて素早く動いた
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 ITベンダーへの評価を上げたのが仙印だ。震災時、システムを管理する三浦豊管理部次長は社業で東京にいた。電話もメールもつながらず、仙台に戻るまで4日間もかかったという。

 「システムは大丈夫か心配だった。戻ってみたところ、違う意味で驚いた」(同)。震災翌日にはITベンダーの営業担当者が仙印を訪れ、システムをいつでも復旧できる準備を終えていた。交換が必要と思われる部品も手配済みだった。「正直、普段は少々頼りないと思っていたが、本当の力は有事に発揮された。ITベンダーの気配りや行動に、心から感謝している」(三浦次長)。

 一方、同じITベンダーに対して不満を持ったのがシバタインテックだ。トラブル対応のためにコールセンターに電話したところ、たらいまわしにされたからだ。

 自社を管轄している仙台市の東北支社にかけたところ、電話が自動的に東京支社に転送された。事情を説明したら今度は大阪支社に転送された。「その都度ハードやシステムの構成、現在の被災状況まで説明を求められてうんざりした」と、業務推進課の堀米拓哉氏は当時を振り返る。

 顧客満足度調査では、ITベンダーに対する感謝の声や非難の声が数多く寄せられた。組織体制に工夫をこらすことはもちろん必要だが、最終的には顧客と接する個々の担当者の機転や気配りの有無が印象や満足度を大きく左右する。仙台中央青果卸売とシバタインテックからの評価の落差には、そんな教訓が潜んでいる。