「人と人の間にあるような善意は、会社と会社の間には存在しないと思っていた。だが今回の震災で、会社間にも善意があるのだと初めて分かった」。JTBグループ(以下JTB)のIT戦略を統括するJTB情報システムの野々垣典男常務取締役 経営企画部長はこう語る。

 5月30日、野々垣常務はOKIの川崎秀一社長を表敬訪問した。「有事の際にOKIは助けてくれました。御社の働きがなかったらコールセンターは開設できませんでした。感謝いたします」。野々垣常務は川崎社長に丁寧にお礼を述べた。今回の震災対応をきっかけに、JTBは、OKIとの取引を拡大する予定だ。

 JTBにとって、OKIはメインベンダーではなかった。コールセンターなど小規模なシステムを発注していた程度だ。だが、JTBのコールセンターの一部が機能しなくなったことを聞いたOKIは即座に駆け付け、夜を徹して臨時のコールセンターの設置に協力し続けた。

 「今回の震災で、ユーザー企業とITベンダーの信頼関係の根っこに何があるのかがよく分かった」と野々垣常務は語る。「自分たち(ITベンダー)も被災していて大変な状況の中で、顧客を第一に考え手をさしのべてくれる企業と、そうでない企業がはっきりと分かれた」と続ける。

4日でコールセンターを構築

 JTBは3月13日、被災地の顧客からかかってくる旅行の取り消しや変更の電話に対応するため、東京本社に臨時のコールセンターを立ち上げると決めた。発券や会計といった支店業務もできるようにする必要があった。震災で営業できない東北地方10店舗の業務を代行するためだ。

 ここでOKIが貢献した。通常、支店業務も実施できるコールセンターを新設するには4カ月程度かかるが、今回はとにかくスピード重視で4日で立ち上げたのだ。

 震災3日後の3月14日に、東京都多摩市にあるJTBのデータセンターに備蓄していたハードウエアなどを組み合わせ、臨時のコールセンターに用いるシステムを構築。15日に本社に運び、16日にはコールセンターが稼働した。

 4月4日には本社の臨時コールセンターシステムを、仙台市にある東北支社に移設した。当初は「輸送手段がなく、私たちにはお手上げ状態だった」(野々垣常務)。これを知ったOKIは、以前から付き合いのある「赤帽」(個人運送業者の集まり)を手配し、次々と機器を仙台に運んだ。さらに、JTBと保守契約を結んでいないにもかかわらず、OKIの運用保守サービスを担当するITベンダーのエンジニアがJTBの東北支社に駆け付けた(写真)。

写真●JTBグループはコールセンターを東北支社に臨時に開設
写真●JTBグループはコールセンターを東北支社に臨時に開設