52億ドルが投じられたイリジウム計画は、大胆かつ無謀な 過去最大のスタートアップ企業の賭けでした。この計画は1987年に米モトローラが考案したもので、1990年には事業会社としてイリジウムを創業、世界中のどこからでも、どこにいても通話ができる携帯電話網の構築を目指しました。そのネットワークを使うことで、世界中のどの大都市や小さな町でも、北極海を航行している船舶でも、アフリカのジャングルの中でも、ヒマラヤ山脈の頂上でも、世界中のどこでも通話できる計画です(図1)。イリジウムは、地上に無線塔をほとんど建てることなく、この計画を成し遂げるつもりでした。

図1●人工衛星を使って世界中の通話を可能にするイリジウム計画の概要
図1●人工衛星を使って世界中の通話を可能にするイリジウム計画の概要

 この計画の実現方法は、かつてないビジネスプランに基づいたものでした。イリジウムはまず、ロシアとアメリカ、中国から15機のロケットを購入しました。続いて72台の人工衛星を製造し、購入したロケットを使って地球から880km上空の軌道に人工衛星を打ち上げました。その人工衛星が、地球上の全地域の通話を可能にする、地上から880km離れた無線塔となるのです。 会社創業後7年目に、人工衛星と地上基地局が完成しました。それは技術的には快挙でした。

 しかし、1998年に最初の通話が行われてから9カ月後に、イリジウムは会社更生法を申請しました。同社は、記録に残っているスタートアップ企業としては最大の失敗として、地球に“墜落”してしまいました。何が問題だったのでしょうか。