ソフトウエア開発者がどのようにキャリアを形成していくか。そのノウハウを、米アップルや米ネットスケープで働いた経験を持つエンジニアが解き明かした一冊だ。「ギーク」とは、米国のスラングで「ガリ勉、物知り」を意味する。今では、一般に「コンピュータ専門家」の意味で使われることが多くなった。
著者のマイケル・ロップはプログラミングの天才でもなければ、スター経営者でもない。いわば「普通のマネジャー」の視点から、シリコンバレーのIT企業の内側をのぞいているのが、本書のユニークな点だ。
「大脱走」という章では、企業の崩壊過程が面白く描かれている。第一波では、まず戦略を担う重要人物が去る。第二波では、それを見て不安を抱いた人々が去る。すると一時的に平和が戻る。「留まっている人たちは能力が乏しく、状況を察知することにも長けていないからだ」という指摘は生々しい。
エンジニアがマネジャーになるときに犯しがちな失敗やその対処法など、社内のキャリア形成に役立つアドバイスも多く掲載されている。マネジャーになって「ToDoリスト」などを使い始めると、ToDoリストを管理するために時間を使うという、本末転倒の状況になる。ToDoリストをこなすだけでは自分のキャリアを成長させられない、などの指摘には共感できる。
ギークはプレゼンテーションに苦手意識を持ちがちだが、キャリアを構築する上で避けては通れない。著者は「まずスライドの作り方じゃなくて『自信』について考えてみよう」とアドバイスする。「誰も見ていないところで立ち上がって歩き回り、繰り返し声に出して練習せよ」と対処方法も実に具体的だ。
日本では、終身雇用という慣行は崩れつつある。日本企業のサラリーマンも、自分のキャリアを会社任せにせず、自力で構築する時期を迎えているのかもしれない。本書には具体的なエピソードが満載されており、日本人にとっても参考にできるケースが多い。翻訳もこなれていて非常に読みやすい。
Being Geek
マイケル・ロップ著
夏目 大訳
オライリー・ジャパン発行
2415円(税込)