数年前、オープンソースのIP-PBXソフトとして話題になった「Asterisk」。最近あまり名前を聞かなくなったと思いきや、表だって語られないだけで意外に有名なサービスにも使われており、IP電話システムの裏側を支えている。第2回はニワンゴの「ニコニコ電話」の事例を紹介しよう。第1回の最後で触れた通り(実は第1回のサービスもAsteriskを使っている)、IP電話を使っていることすら分からない変わり種のサービスだ。

写真1●「ニコニコ電話」の当選を知らせる画面
写真1●「ニコニコ電話」の当選を知らせる画面

 ニコニコ電話とは、「ニコニコ生放送」中に電話をかけて音声で番組に参加できるサービスである。「ニコニコ動画プレミアム会員」向けの限定サービスであり、2010年2月に開始した。番組に音声で参加したい視聴者は、携帯電話上で稼働する「ニコニコ動画」のモバイル用アプリから参加の意思表示をし、そこから抽選、当選といったプロセスを経て、生放送番組に参加する資格を得る(写真1)。

 ちなみに「ニコニコ動画」とは、音楽やお笑い、ゲーム、対談などの動画の再生中にコメントを付けてそれらを共有できる動画コミュニティサイト。「ニコニコ生放送」はリアルタイムで配信される映像を視聴しながら、コメントしたり、アンケートに答えたりといったことができるライブ映像サービスだ。ニコニコ電話の仕組みについては後述するので、まずはニコニコのサービスになぜ電話が加わったのかを見ていこう。

ガラケーユーザーを”勝ち組”に

 まず電話を使うサービスを企画した意図について、ニワンゴの親会社であるドワンゴのニコニコ事業本部企画開発部第一セクションの高橋大樹氏は次にように説明する。「最初から音声コミュニケーションにこだわっていたわけではないが、ガラケーユーザーが能動的にニコニコに参加できる仕組み、ガラケーユーザーがニコニコで勝ち組になるにはどうすればいいかを考えていて、それを可能にする唯一の手段が電話だった」。

 そもそもニコニコ生放送は基本的にPC向けに開発されたもので、携帯電話で放送を見る場合は、PC向けの機能を絞った形になる。「モバイルでPC向けの機能を追ったところで、PCと同じにはならない。だがニコニコ電話のサービスは携帯電話でしかできない仕組みになっており、携帯電話を優遇したサービス」(ドワンゴ ニコニコ事業本部企画開発部の榎本大介氏)だ。

 ニコニコ電話は、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイル各社の従来型携帯電話およびiPhoneを使っているユーザー専用のサービスである。前述のニコニコ動画モバイル用アプリが、iアプリ、EZアプリ、S!アプリおよびiOSのアプリとして提供されているからだ。またニコニコの視聴者層を広げるという狙いもあった。「携帯電話をメインで使っている若い女性向けサービスを作りたかった」(高橋氏)。

 携帯電話専用とは言っても利用実態としては、通常時はパソコンで視聴しているユーザーが、ニコニコ電話で参加できる番組の際はパソコンで視聴しながら携帯電話も利用する、という形となる。

 同社のニコニコ生放送は、コアなファンが付いているビジュアル系バンドや声優の番組なども放送されている。「特に男性声優、ビジュアル系バンドなどの放送でニコニコ電話が女性ユーザーに人気」(高橋氏)だという。若い女性向けという狙い通りの展開であり、さらにプレミアム会員を増やす効果もあったという。